制裁としての損害賠償

制裁としての損害賠償

2011/06/01

こんばんは!弁護士の矢口です。

先週アメリカのイリノイ州で、20代の女性従業員が上司からセクハラを受けたとして、勤務先だった家具店の会社に損害賠償を求めた訴訟で、裁判所の陪審団は約76億円(9500万ドル)の賠償を命じる評決を出しました。

被害女性が訴えているセクハラの内容は、セクハラの中でも極めて悪質な部類に入るのですが、それでも76億円という金額は大きいですね。

アメリカではよくこういった何十億といった損害賠償が課されることがありますが、日本ではこのような例はありません。

今日は、どうして日本ではアメリカで出るような何十億という判決が出ないのかについて、少し見ていきましょう。

この点については、日本の損害賠償のしくみとアメリカの損害賠償のしくみが全く違うということを知っておかなければなりません。

アメリカの裁判所は、「懲罰的な損害賠償」を命じることがあります。

これは、見せしめとして莫大な損害賠償を払わせることで、「悪いことをしても割にあわない」ということを身に染みてわからせて、「もう二度とこういうことはしないようにしよう」ということを皆に思わせることを目的としているんですね。

今回の件でも、約64億円の8000万ドルは懲罰的な損害賠償として認められています。イリノイ州の企業では、この判決をきっかけにして「セクハラが社内で起こったら会社がつぶれる!」とほとんどの社長が震え上がっていると思います。

ただ、日本ではこのような制度は認められていません。

最高裁判所の判断によると、日本の損害賠償制度のしくみは、「実際に被害者にどれだけ不利益や損害が出たのかということを計算して、加害行為がなかったときの状態に回復させること」を目的とするとされています。

「加害者に制裁を加える」ことは予定されていないんですね。

例えば、アメリカで出た何十億という損害賠償の判決を日本で財産を差し押さえるために強制執行しようとしても、日本では強制執行ができません。

最高裁判所は、「見せしめと制裁のための懲罰的損害賠償の部分は、我が国の公の秩序に反するから、効力を有しない」として、懲罰的損害賠償の部分は無効と判断しています。

じゃあ、日本の制裁や見せしめはどうなってるんだといういいますと、日本では、「刑事罰」と「行政処分」によって見せしめや制裁をされるべしとされているんですね。

私個人としても懲罰的賠償が正しいとは思えません。損害賠償の部分で制裁や見せしめを認めてしまうと、「公平さ」が根本から失われてしまう気がします。

ただ、日本でも法律は国会議員によって変更されます。

将来的に日本でもアメリカのような訴訟社会になって、国民の考え方が変わってきたら、懲罰的損害賠償を認めるような法律ができるかもしれませんね。

平成23年6月13日
文責 弁護士 矢口耕太郎

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