敷引特約の有効性

敷引特約の有効性

2011/05/08

こんばんは!弁護士の矢口です。

今日は、敷引特約についてのお話です。

「敷引特約」というと、福岡では当たり前のお話のように聞こえてきますが、平成23年3月24日に新しい最高裁の判決が出ましたので、それを見ていくことにしましょう。

こんな事件です。

Xさんは、マンションの1室をYさんから借りましたが、賃貸借契約が終了した後に差し入れていた保証金(敷金と思ってください)を請求したものの、「敷引特約」により21万円を返してもらえませんでした。そこで、保証金が返してもらえなかったことに対し、敷引特約が無効であるとして、その返還を求めました。
賃貸借契約の内容は
① 契約期間  平成18年8月21日から平成20年8月20日まで
② 賃料    月額9万6000円
③ 部屋の広さ 65.5㎡
④ 保証金   40万円
⑤ 明渡しの時には、明渡しまでの経過年数に応じた以下の額を保証金から控除した残額をXに返還する(「敷引特約」)。通常損耗等の原状回復費用は、敷引金から賄う。
控除額 経過年数 1年未満 18万円  2年未満 21万円 3年未満 24万円  4年未満 27万円 5年未満 30万円  5年以上 34万円
⑥ 更新料   9万6000円

さて、この事件のどこに問題があるのでしょうか。

消費者契約法10条という法律があります。

消費者契約法10条は、①消費者に不利な契約(消費者である賃借人の義務を加重する)で、②信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効としています。

そこで、Yさんは、「この敷引特約は、本当だったら大家さんの負担であるはずの通常損耗分まで敷金から差し引いていておかしい。普通は通常損耗分は賃料に含ませて大家さんは回収するものである。敷引特約は、賃借人に不利で信義則に反する不当な契約であるから、無効とされるべきだ。」こういって裁判で無効を主張しました。

判決の内容を見てみましょう。言い回し方が難しいので、難しいと感じた方は、→のところを読んでみて下さいね。

ア 「賃借人に通常損耗等の補修費用を負担させる趣旨を含む本件特約は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものというべきである。」

→ 一般に、畳が古くなった分を新しいのに取り替えたり、クロスを張り替えたりするなど、時がたつにつれてだんだん古くなるものを取り替える費用(難しい言葉で通常損耗等の補修費用といいます)は大家さんの負担とされています。
ところが、敷引特約は、本来的に大家さんの負担とされるべき費用を、賃借人の負担としているんですね。そこで、敷引特約というのは消費者である賃借人の義務をさらに大きくする不利なものであるといっています。

イ 「敷引特約が付されて金額が明示されている場合は、賃借人の負担は明確に合意されている。通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収がはかられているのが通常だとしても,敷引として授受する旨の合意が成立している場合には,その半面において,補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって補修費用を賃借人が二重に負担するということはできない。」

→ 敷引特約の金額がしっかり決まっていれば、どのくらい賃借人が金額を負担するかは明らかになっています。普通は通常損耗の補修費用というのは、大家さんが賃料にこれを上乗せして補修費用をためていくものですが、敷引としてしっかり金額をきめているような場合には、賃料の中には補修費用を上乗せしていないということを明らかにして賃料の額を合意しているとみることができます。だから、敷引特約によって、ちょっと見ると、賃料に上乗せしている補修費用に加えてさらに敷引特約でお金をとっているから大家さんが二重取りしているようにも考えることができますが、そうではないということをいっています。

「補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」

→ ともすると、通常損耗の費用については後でトラブルになることもあります。そこで、トラブルを未然に防ぐためにあらかじめ定まった金額を敷引特約としていれておくことはあながちおかしいとはいえません。ですので、信義誠実の原則に直ちに反するとはいえないということを言っています。

「もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が高額にすぎる場合は,賃借人が一方的に不利益な負担をする場合が多いといえる。」

→ ただ、家を借りる人は普通は通常損耗で必要となる金額を知らないことが多いうえに、これを賃貸人と交渉することも現実には難しいですから、敷引特約の金額が高すぎる場合には、一方的に賃借人に不利益を負わせるものになるから不当な場合が多いということをいっています。

ウ そこで,「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である」

→ これが重要な部分です。判断基準を書いています。
どういうことかといいますと、①通常損耗等で必要となる金額と賃料の金額、礼金などの賃貸借契約で大家さんがもらう金額全体を見てみて、敷引金の金額が大きすぎるといえる場合には、②賃料が周りと比べてとても低いといった特別の事情がない限り、③無効となるということです。
ぱっとこの部分をみると、原則として無効、例外的に有効としているようにも思えますが、前提要件として「敷引金の金額が高額にすぎる」という言葉が入っているので、これを満たさない限りは「有効」ということになります。
どういう場合が高すぎて、どういう場合が低すぎるのかということをこの判決は明確にはしていません。

ただ、今回の事案では、高すぎないとして有効にしました。その際の判断の材料になっているのは
ア 18万~34万円は通常損耗の補修費用として想定される金額を大きく超えていない。
イ 経過年数に応じて2倍弱~3.5倍はそれほど高くない。
ウ 更新料は2年で1ヵ月分でたくさんとっているわけではない。
エ 礼金もとっていない

ということで、高額すぎないとされています。個人的には、3.5倍をそれほど高くないと評価している点に驚きました。

福岡の賃貸借契約は、更新料や礼金をとっていないケースが多いです。そういう意味では、敷引特約が何のために使うのかということが明確に示されている場合(何のために使うかという表示は非常に重要です)には、高額になりすぎていなければ有効になる場合が多いかもしれませんね。

文責 弁護士 矢口耕太郎

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