労働問題

労働問題

取扱分野

  • ・残業代、給与、退職金請求
  • ・労災事故
  • ・解雇
  • ・セクシャルハラスメント
  • ・配置転換、就業条件変更

 現代の日本では大多数の人が給与所得者となっており、労働契約、そしてそれを規律する労働法分野は、実は多くの人にとってもっとも身近な法律分野といえます。

また、労働法は、労働者の権利を保護するという目的を持っており、多くの場面で民法の原則が労働者有利に修正されています。紛争解決の手続も、訴訟より利用しやすい特別な制度が用意されています。

しかし、多くの人にとって、会社という組織を相手に自分で交渉するには大変な労力がいるので、不当な取り扱いを受けても諦めてしまうことが少なくないというのが現状です。
 弁護士は、代理人として会社と交渉を行い、各種紛争解決手続を活用することによって、解雇問題・賃金問題・残業問題その他の労働問題を解決いたします。

解決までの流れ

1 法律相談
弁護士が面談し、事実関係をお聞きした上で、法的解決の見通しや事件の進め方をご説明いたします。当事務所では初回の面談は無料です(事前に雇用契約書や給与明細書、解雇通知書など、関係する書類を当事務所に送って検討を依頼される場合は有料となります)。

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2 受任
依頼した場合の弁護士費用についてご説明し、了解いただいた場合は委任契約書を作成いたします。費用は原則として当事務所の報酬規程に従って決定しますが、事案の内容等に応じて金額を変更することもあるほか、法律扶助の制度もありますので、費用の点についても弁護士にご相談ください。

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3 会社との交渉
特に法的手続を取る必要はないと判断される場合は、弁護士が会社担当者と交渉を行います。

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4 仮処分
解雇を通知されて給料が支払われなくなったなど、交渉や訴訟での解決を待つ余裕がないような場合は、会社に対して仮で賃金を支払うことなどを裁判所に求める仮処分手続を行います。

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5 労働局斡旋(あっせん)
労働局による紛争解決斡旋手続は、行政が当事者間の話し合いによる解決をあっせんするものです。会社が話し合いに応じることが前提ですが、迅速な解決が期待できます。

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6 労働審判
解雇問題や賃金問題など、典型的な労働事件を主な対象として、裁判所と専門家が話し合いによる解決を図る手続で、多くは3ヶ月程度の期間で終了します。証拠資料を見た上で解決案が提示されますので、解決率は高くなっています。

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7 民事訴訟
話し合いによる解決ができない場合は、訴訟を提起して勝訴判決を目指すことになります。相応の時間と労力がかかりますが、強制力のある形での紛争解決が可能です。

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労働専門部より

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労働問題Q&A

賃金について
Q1 残業や休日労働の場合,会社はどれだけの割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?
残業(時間外労働)の場合は,通常の労働時間または労働日の賃金より25%多く割増賃金を支払う必要があります。休日労働の場合は35%の割増となります(労基法37条4項,割増賃金令)。また,午後10時から午前5時までの間に労働をした場合は深夜労働となり,別途25%の割増賃金を支払う必要があります(労基法37条3項)。残業や休日労働が深夜労働にもあたっている場合は割増率は合算され,時間外深夜労働に対しては50%,休日の深夜労働に対しては60%の割増賃金を支払う必要があります(労基則20条1項・2項)。
Q2 従業員が重大なミスをして会社が損失を受けてしまったので、会社としてはその従業員に負担してほしいのですが、どのように行えばよいでしょうか?
(1)損害賠償請求
従業員の過失により会社が損失を受けた場合には、債務不履行や不法行為として、会社から従業員に対して損害賠償を請求できる可能性があります。しかし、会社には従業員がミスをしないように監督・指導する責任もありますので、過失があっても重大なものでないときは損害賠償請求自体が認められないことがあります。損害賠償請求が認められるときでも、従業員に故意があったような場合でない限りは損失全額の請求が認められることは必ずしも多くなく、50%以上の過失相殺がおこなわれた例もあります(最判S51.7.8など)。
(2)賃金との相殺
従業員に対して損害賠償請求ができる場合でも、賃金と相殺して控除することはできません。賃金は全額を支払わなければならないと法律で定められているためです(労基法24条1項、全額払の原則)。賞与や一時金なども賃金にあたるので、やはり相殺はできません。
(3)減給
就業規則に従業員のミスに対する懲戒処分の一つとして減給が定められている場合には、減給処分を行うことができます。ただし、減給には上限があり、1回の減給額は平均賃金1日分の半額を超えてはならず、ミスが複数あって2回以上減給処分をしたときの総額は一つの賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないと定められています(労基法91条)。単純にいうと、月給20万円で1日分の平均賃金が1万円の場合、1回の減給額の上限は5000円で、ある月に複数回減給処分をする場合の上限は2万円ということになります。
(4)賞与や一時金の減額査定
賞与や一時金の規程が、金額算定に当たって従業員のミス等の事情も査定の対象とするという内容になっていれば、減額査定をすることは認められます。
Q3 ある月の仕事が忙しく,残業時間が他の月より多くなったので残業代もいつもより多くもらえると思っていたのですが,会社から「毎月一定額の残業手当を支払うことに決まっているので,残業代のプラスはない」と言われました。たしかに,他の月は実際の残業時間もだいたい同じですし,残業時間にほぼ見合う額の残業手当をもらっているようです。この場合,たまたま残業時間が普段より多くなっても残業代はもらえないのでしょうか?
割増賃金を固定額で支払う場合も,実際の残業時間について労基法37条で定められた割増率に基づいた金額を下回ることはできません。そのため,残業手当が労基法37条に基づく割増賃金を下回っている場合は,会社はその差額を支払う義務があります(東京地裁H10・6・5)。会社の業務の性質上、どうしても一定の時期に長時間労働をしてもらう必要があるのですが、残業代を支払うのが大変です。残業代を抑える方法はないでしょうか。
法律上の労働時間規制の特例としては、以下の制度があります。
(1)変形労働時間制
法定労働時間の規制(1日8時間、1週40時間)を一定期間の総労働時間の規制に置き換える制度です。期間内の所定労働時間が平均して1週40時間を超えない限り、その期間内の一定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定したとしても、時間外労働にならなくなります。時期によって繁閑の差が大きい会社に適しています。1か月単位の場合(例えば一日の所定労働時間が7時間で隔週週休二日制とする場合です。週休1日の週の所定労働時間は42時間で、週休2日の週は35時間となります)は就業規則に規定することで定めることができますが、1年単位や1週間単位の場合はそれ以外に労使協定を締結することが必要です。また、1週間単位の変形労働時間制は、小売業等の接客を伴う事業についてのみ導入できます。
(2)事業場外労働のみなし労働時間制
事業場外で業務に従事して労働時間の算定が困難な場合には、所定労働時間だけ労働したものとみなされます。所定労働時間を超えて労働することが通常必要となる場合には、「業務を行うのに通常必要な時間」だけ労働したものとみなすこともできます。現実の労働時間にかかわらず、みなし労働時間分の賃金を支払えばよくなるという効果があります。通常必要時間みなしの場合は、労使協定でみなし時間を定める必要があります。
(3)裁量労働制
労働時間で賃金を算定するのに適さない専門業務や企画業務に従事している従業員について、あらかじめ定めた時間だけ労働したものとみなすことができる制度です。専門業務型の場合は労使協定で、企画業務型の場合は労使委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とし、労働条件に関する事項を調査審議し意見を述べる組織)の決議でみなし時間を定める必要があります。
(4)フレックスタイム制
始業時刻と終業時刻の決定を従業員に任せる制度です。1ヶ月以内の清算期間全体の法定労働時間の総枠を超えなければ、1日や一週につき法定労働時間を超えた労働をしても時間外労働にはならなくなります。導入のためには就業規則の定めと労使協定の両方が必要です。
これらの制度は要件や手続が複雑なので、導入する場合は専門家に相談したほうがよいでしょう。
Q4 賃金や退職金は、何年で消滅時効にかかるのでしょうか?
賃金は2年間で、退職金は5年間で消滅時効にかかります(労基法115条)。いずれも、請求できるようになったとき(通常は、労働契約や就業規則で定められている支払日ということになるでしょう)から起算します。
Q5 うちの会社では年2回ボーナス(賞与)を支払うこととなっており、夏のボーナスは、前年の10月1日からその年の3月31日までの期間の査定に基づいて算出した額を、7月25日に支払うことと定められています。この場合、査定期間中には勤務していたものの7月25日の前に退職した従業員については、ボーナスを支払う必要はあるのでしょうか?
原則として、支払う必要はありません。賞与は過去の労働に対する報酬というだけでなく、将来への意欲向上策としての意味もあるため、支給日に在籍している者にのみ支払うという定めにはそれなりに合理性があると考えられるためです。ただし、会社都合での退職の場合など、退職に至る事情によっては支給日在籍要件が公序良俗違反とされる可能性があります。
Q6 労働日に突然会社から「仕入先が倒産してしまい,会社が材料を仕入れることができないから今日の仕事は何もない。今日は出勤しなくてよい。」と言われました。この日の分の給料は会社から支払ってもらえるのでしょうか?
まず,休業が使用者の帰責事由によって生じた場合(例えば,使用者が材料を故意に仕入れなかった場合)は,労働者は賃金請求権(民法536条2項)・休業手当請求権(労働基準法26条)を有していることになります。一方,休業が経営障害という当事者双方の責めに帰すことのできない事由によって生じた場合,賃金請求権は発生しませんが,休業手当請求権は発生します。これは,休業手当は労働者の所得保障・生活保障という趣旨で定められたものであり,「使用者の責めに帰すべき事由」には「使用者側に起因する経営,管理上の障害を含む」(最判昭和62年7月17日民集41巻5号1283頁)とされているからです。
そして,休業手当については,使用者は,休業期間中当該労働者に,その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないとされています(労働基準法第26条)。本件では,仕入先の倒産を原因とする休業なので,当事者双方の責めに帰すことのできない事由といえますが,使用者側に起因する経営,管理上の障害といえます。したがって,賃金請求権は発生しませんが,休業手当請求権は発生することになるので,会社に対し給料(平均賃金の100分の60以上の手当)を支払うよう請求できます。なお,台風・地震等の天変地災に基づく休業は経営障害ではなく,不可抗力による休業なので,使用者の帰責事由とはいえず,休業手当を請求することはできません。
Q7 会社から採用内定をもらったのですが,自宅待機を命じられました。この場合には給料はもらえないのでしょうか?
採用内定は一般には例年の入社時期を就労始期とし,一定の事由による解約権を留保した労働契約の成立とみられることが多いので,企業の都合によって就労の始期を繰り下げる自宅待機の措置をとるときは,労働基準法26条に定める休業手当を支給すべきであるとされています(昭和63年3月14日労働基準局長通達150号)。したがって,全額ではありませんが,会社に対し給料を支払うよう請求できます。
Q8 私の妻が出産したのですが,どうしてもお金が足りません。すでに何週間か働いた分があるので,この分を給料日前に受け取ることは可能でしょうか?
使用者は,労働者が出産,疾病,災害その他厚生労働省で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては,支払期日前であっても,既往の労働に対する賃金を支払わなければならない(労働基準法第25条)とされています。 したがって,給料日前であっても,すでに働いた分についての賃金は,使用者に請求すれば,支払ってもらうことができます。
※参考
 労働基準法施行規則第9条
 法第25条に規定する非常の場合は,次に掲げるものとする。
 第1号 労働者の収入によって生計を維持する者が出産し,疾病にかかり,又は災害をうけた場合
 第2号 労働者又はその収入によって生計を維持する者が結婚し,又は死亡した場合
 第3号 労働者又はその収入によって生計を維持する者がやむを得ない事由により一週間以上にわたって帰郷する場合
Q9 社員貸付金制度を利用した従業員が退職する際、貸付金債権と退職金を相殺することはできますか?
使用者は、労働基準法24条1項の規定に従い、賃金の全額を労働者に支払わなければなりません。退職金も、支払条件が明確であれば、労働基準法上の賃金に該当しますから、会社は、原則として、従業員に対する貸付金債権と退職金を相殺することはできません。
もっとも、労働者本人が、自由な意思に基づき相殺に同意した場合には、相殺できます。労働者の自由な意思の存否については、①相殺合意の成立経緯・貸付金の返済方法に関する労働者の認識、②使用者の有する債権の性質によって判断されます。
例えば、労働者が、会社や銀行等から住宅資金の貸付けを受けるにあたり、退職時に退職金から融資残債務を一括返済し、銀行等への返済については会社に対して返済手続きを委任する約定をしたケースにおいては、①返済の手続き等を労働者が自発的に依頼したこと、②貸付が低利かつ相当長期の分割弁済を予定しており、その利子の一部を会社が負担するような措置がとられていること、③労働者においても各約定を十分認識していたことがうかがわれること等を理由に、労働者の相殺の同意は、その自由な意思に基づくものと判断されています(日新製鋼事件:最裁平成2年11月26日)。
解雇について
Q1 会社の就業規則には,「勤務成績・態度が不良」などの場合に従業員を解雇するとの規定があります。この規定があれば,会社は勤務成績・態度不良の従業員を自由に解雇できるということになるのでしょうか?
そうではありません。就業規則にもとづいて解雇する場合でも,「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合」は,解雇権を濫用したことになってしまい,解雇は無効となります(解雇権濫用法理,労働契約法16条)。質問では勤務成績・態度不良の従業員ということですが,それまでに訓戒や減給などの軽めの処分を行って改善を待ったり,あるいは別の部署に配転して様子を見ることなく,いきなり解雇が行われた場合は,解雇権の濫用となる可能性が高くなるといえます。
Q2 3カ月の試用期間ありとの条件で会社に採用されましたが,試用期間中に,本採用は行わないと会社から通告されました。確認してみると,たしかに試用期間中は会社に労働契約の解約権が留保されていることになっていました。この場合,会社は自由に解約権を行使できることになるのでしょうか?
試用期間中に留保している解約権を行使することは,客観的に合理的な理由が存在して社会通念上相当として是認される場合でないと許されないとするのが判例の考え方です(最判S48・12・12)。したがって,通常の解雇と比べれば有効とされやすいとはいえるでしょうが,留保解約権の行使が無制限に許されるわけではありません。
Q3 ある従業員が業務外で病気になってしまったので傷病休職を命じました。休職期間の満了が近づいているのですが、業務に復帰できる状態には回復していないようです。就業規則には、休職時間満了時に休職事由が消滅していない場合には解雇事由になるとする規定があるので、解雇して辞めてもらおうと思うのですが、問題はないでしょうか?
傷病休職事由が消滅したと認めるためには、原則として、以前の業務を支障なく行える状態に復帰したことが必要となるので、そうでなければ解雇事由にあたることになります(解雇ではなく自動退職と定めている例も多いです)。ただし、休職期間終了時に回復していなくても、相当期間内には治癒することが見込まれ、かつ当人に適切なより軽い業務が存在するときには、使用者としては従業員が治癒するまでの間、軽い業務に配置するべきであるとされた例があります(東京地判S59.1.27、大阪地判H11.10.4など)。このような場合ですと、解雇や自動退職の効果が認められない可能性があります。
Q4 会社の経営が厳しく、リストラ(人員削減)に踏み切らざるをえないと思っていますが、どのように行えばよいですか?
経営上の理由による人員削減の手段として行われる解雇を整理解雇といいますが、多くの裁判例では、次のような事情を考慮して解雇権の濫用に当たらないかどうかを判断しています(整理解雇の四要件や四要素などと呼ばれます)。
(1)人員削減の必要性
(2)解雇回避努力(雇止めや自主退職勧奨など、解雇以外の方法で人員削減する措置を講じること)
(3)人選の合理性
(4)解雇手続の相当性(理解を得るための説明や協議を行うこと)
したがって、経営が厳しいということで(1)の人員削減の必要性が認められたとしても、それだけで整理解雇が有効になるわけではありませんので、注意が必要です。
Q5 (従業員側)会社から、突然「明日から来なくていい」と言われ、解雇されてしまいました。しかし、解雇されるようなことをした覚えはなく、とうてい納得できません。この場合、どのような手段で争うことができるでしょうか?
裁判所の制度としては、以下のものがあります。
(1)民事保全手続(仮処分)
 裁判所が、紛争が解決するまでの間、簡易迅速な手続によって暫定的な救済を与える制度です。賃金収入が途絶えると労働者及びその家族の生活が困窮してしまうような場合に、賃金仮払の仮処分を求めることが典型例です。
(2)労働審判
 裁判官と労働審判員(労働関係の専門的な知識経験を有する者)からなる労働審判委員会が、非公開で行う裁判所の手続です。通常の訴訟と比べて、原則として3回以内の期日(平均して2ヶ月半程度)で終了する迅速性が特徴です。手続内では当事者の合意による解決が目指されますが、調停が成立しない場合には審判を行います。審判に対して異議が申立てられた場合は自動的に訴訟へ移行します。平成18年から開始された新しい制度で、利用件数が増えてきています。
(3)民事訴訟
 話し合いによる解決が難しい場合や、事情が複雑で簡易迅速な手続での解決には向いていない場合には、上の二つの制度と比べて長い期間がかかるものの、訴訟手続を利用して判決で決着することになります。従業員を解雇する場合、いつまでに解雇を予告する必要があるのでしょうか。原則として、解雇の予告は30日以上前に行う必要があります(労基法20条1項)。30日以上前に予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。これが解雇予告手当と言われるものですが、支払った平均賃金の日数分だけ予告日数を短縮することが認められます(労基法20条1項、2項)。つまり、「解雇予告手当 = 平均賃金 ×(30日-解雇予告期間)」ということになります。ちなみに起算日は解雇予告日の翌日です。なお例外規定があり、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」または「労働者の責(せめ)に帰すべき自由に基づいて解雇する場合」には、行政官庁の認定を受けて、即時解雇することが認められます(労基法20条1項但し書、同3項・同19条2項)。
Q6 契約期間を1年間と定めて雇用した従業員に対して雇止めの通知を行う場合、注意すべきことはあるでしょうか?
契約期間の定めがある場合は、その期間が満了したときに労働契約は終了するのが原則です。ただし、何度も契約の更新がなされていて、実質的に期間の定めがない契約と同じといえるような場合には、解雇権濫用法理が類推適用されるとした判例があります(最判S49.7.22)。更新の回数が少ない場合でも、契約が更新されることにつき合理的な期待があるような場合には、更新の拒否は制限される可能性があります(大阪高判H3.1.16)。なお、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」という、厚生労働省が労基法14条2項に基づき定めた政令があり、「使用者は、有期労働契約(ただし3回以上更新しているか、又は雇入れの日から1年を超えて継続勤務しているものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。」(第2条)などといった規制がなされています。
Q7 (使用者からの相談)労働者から、個人的な事情により退職願の提出がありましたが、その後、退職願を撤回したいとの申し出がありました。会社としては、このような労働者からの撤回を認める法的義務はありますか。
退職願が、労働契約の合意解約の申出か辞職かによって結論が異なります。
まず、労働契約の合意解約とは、合意によって労働契約を将来に向けて解約することであり、この場合は、使用者の承諾の意思表示(例えば、退職の決裁権限を有する人事部長による退職願の受領など)がなされるまでの間は、労働者は、撤回することができます。
他方、辞職とは、労働者による一方的な労働契約の解約であり、この場合は、労働者は、原則として、撤回はできません。ただし、例外的に、意思表示の瑕疵による無効または取消しの事由があれば撤回できる可能性があります。例えば、客観的には解雇事由がないのに、使用者が労働者に対してそれがあるかのように誤信させたため、労働者が、退職願を提出しなければ、解雇処分にされると誤信した場合には、労働者による辞職の意思表示が無効とされる場合があります。
したがって、今回の労働者からの退職願については、それが辞職の趣旨であれば使用者としては撤回に応じる法的義務はありません。また、労働契約の合意解約の申出の趣旨であっても、すでに使用者の承諾の意思表示をしていれば、撤回を認める法的義務はないということになります。
就業規則について
Q1 採用されるにあたって会社と雇用契約書を作ったのですが,あとで就業規則をよく読むと,雇用契約書に書かれている賃金が,就業規則の内容よりも低い水準になっていました。この場合は,どちらが適用されるのでしょうか?
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定めた雇用契約書(労働契約)は,その部分について無効となり(強行的効力),就業規則で定めた基準が適用されます(直律的効力,労働契約法12条)。
Q2 会社には就業規則がありますが,どこに保管されているか分からず,他の従業員に聞いても内容を知らない人ばかりでした。内容が分からないのに就業規則に拘束されてしまうのでしょうか?
会社は,就業規則を作業場の見やすい場所に常に掲示するか又は備え付ける,あるいは書面の交付などの方法により,就業規則の内容を従業員の誰でも確認できるようにしておかなければなりません(周知義務,労基法106条1項,労基則52条の2)。この周知義務が果たされないと,就業規則の効力は発生しません。
Q3 会社から,「経営が厳しいので就業規則を改定して賃金体系を変える」との話がありました。試算してみると,従業員の一部には給料が上がる人もいますが,それ以外の従業員はいまよりも給料が下がることが分かりました。このような改定は認められるのでしょうか?
就業規則の不利益変更は,当該規則が合理的なものである限りにおいて認められ,変更に反対している従業員に対しても拘束力を持ち得ます(最判S43・12・25)。変更に合理性があるかどうかは,
①変更の必要性,
②変更がもたらす従業員への不利益の内容と程度,
③変更後の就業規則の内容の社会的相当性,
④変更手続の相当性などを考慮して判断されます。
質問の事例ですと,経営が厳しいということは就業規則変更の必要性があると判断される事情にはなり得ますが,給料の下がり幅の大きさ,あるいは改定に至るまでに行った従業員との話し合いの回数などによっては,変更に合理性なしとされる可能性があります。
Q4 私は従業員を雇っていますが,就業規則を作成する義務はありますか。また義務があるにもかかわらず就業規則を作成しなかった場合どのような処罰をうけますか?
常時10人以上の労働者を使用する使用者は,法定の特定の事項について就業規則を作成し,行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届けなければならないという義務があります(労働基準法第89条,労働基準法施行規則第49条第1項)。この義務に違反した場合には30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第120条第1号)。
Q5 就業規則を作成するにあたってどのようなことに注意すべきですか?
まず,使用者は就業規則を作成するに当たっては,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法第90条第1項)。そして,就業規則の届出をする際には,上記意見を記した書面(労働者を代表する者の署名又は記名押印のあるもの)を添付しなければなりません(労働基準法第90条第2項,労働基準法施行規則第49条第2項)。また,就業規則は,法令又は当該事業場ついて適用される労働協約に反してはならない(労働基準法第92条)とされています。
労災について
Q1 会社のスポーツ大会中に、怪我をしてしまいました。これは労災にはあたらないのでしょうか?
労災保険給付の対象となる災害とは、労働者の「業務上」または「通勤上」の負傷、疾病、傷害または死亡をいいます(業務災害と通勤災害。労災保険法7条1項1号及び2号)。このうち業務災害については、大まかにいうと「業務遂行性(事業主の支配・管理下にあるかどうか)」と「業務起因性(業務に内在する危険が現実化したといえるか)」が要素となります。質問の事例のように、通常の仕事を行っていないときであっても、スポーツ大会が強制参加であったなどの場合には、事業主の支配・管理下にあったとして業務災害にあたる可能性があります。
Q2 労働者が仕事上の問題から自殺した場合、労災保険の適用はないのでしょうか?
労災保険法上給付制限を受ける場合としては、労働者が故意に負傷、疾病、傷害もしくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせた場合が定められています(労災保険法12条の2の2)。すると、自殺は「故意に死亡」した場合に当たるため、労災給付が不支給となりそうです。しかし、過労自殺の場合(①業務上の災害により負傷または疾病を被った労働者が、この業務上の負傷・疾病によって反応性うつ病などの精神障害に陥り自殺した場合や②業務による著しい心理的負荷から精神障害となり自殺した場合)にはこの給付制限は適用されず、労災保険給付が支給される場合があります(平成11基発544号、545号、1226第1号(厚生労働省労働基準局長による「心理的負荷による精神障害の認定基準について」)が判断基準となります。)。
Q3 私は現在、平日は家族と離れて単身赴任中ですが、週末は職場から家族のいる家に戻って過ごしています。ある週末を控えた金曜日に、職場から家族のいる家に戻る途中、交通事故に遭い怪我をしてしまいました。このような場合も労災保険の適用はあるのでしょうか?
労災保険の給付対象となる通勤災害であるためには、「住居」と就業場所の間の往復途中で起きた災害でなければなりません。この「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所であって本人の生活の拠点のことをいいますが、単身赴任者の場合は赴任先住居だけでなく、帰省先住居についても、就業先との間の移動について反復継続性が認められる場合は「住居」に含まれるとされています(平成7・2・1基発39号)。よって、あなたの場合も帰省先の住居と職場との間の往復に反復継続性が認められるため、労災保険の適用を受けられる可能性があります。
Q4 会社から帰る途中、いったん寄り道をして、それからまたいつもの帰り道に戻って歩いていたのですが、そのとき交通事故に遭ってしまいました。この場合、労災と認められるのでしょうか?
住居と就業の場所との間の往復のための合理的な移動経路を逸脱した場合は、その逸脱中及びその後の移動は「通勤」とは扱われず、そのときに事故に遭っても、労災保険の適用される通勤災害ではないことになります(労災保険法7条1項2号、同条2項、同条3項)。つまり、いったん寄り道をして合理的な移動経路を逸脱・中断してしまうと、そのあとで逸脱前の経路に戻っても、再び「通勤」している状態に戻るわけではありません。ただし例外があり、寄り道が生活上必要な行為であって、日用品の購入、職業能力開発のための受講、選挙権の行使、病院での診療、近親者の介護などのための最小限度である場合は、その寄り道(逸脱・中断)の間以外は「通勤」と扱われます(労災保険法7条3項但し書、労災保険規則8条)。したがって、寄り道の目的によって、質問されたケースが労災にあたるかどうかの結論は違ってくることになります。
使用者と労働者の関係について
Q1 最近雇った従業員の何人かが、入社してもすぐに退職してしまうという出来事がありました。今後も同じようなことがあると迷惑なので、雇用契約の中に、「入社後1年未満で自己都合退職する場合には、賃金1年分の違約金を支払う」という条項を入れたいと思うのですが、こうした条項を入れることはできるのでしょうか?
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならないと定められています(労基法16条)。質問のような条項はこの規制に違反するので、認められないということになります。
Q2 当社には駐車場があり、マイカー通勤をしている従業員がいます。先日、従業員の一人がマイカー通勤中に交通事故を起こしてしまい、被害者に1ヶ月の入院を要する重傷を負わせてしまいました。この場合、会社にも損害賠償責任があるのでしょうか?
これは、会社が自賠責法上の運行供用者や、民法上の使用者にあたるかの問題となり、マイカーをどのように使っていたかによって結論が違ってきます。裁判例では、会社の損害賠償責任を認めるか否かについては、
①日頃マイカーが会社の業務にどの程度使用されていたか、
②事故が通勤・業務中・私用のどの機会に生じたか、
③ガソリン代や保険料の負担や駐車場の提供を会社がしていたか、
④会社がマイカーの業務使用を明確に禁止していたか、などの事情を総合的に考慮して判断していると言われています。裁判の傾向としては、従業員が通勤のみにマイカーを使っており、業務のためにマイカーを使うことはなかったという場合であれば、たとえ会社の駐車場を使わせていたとしても、会社の業務のために使用する事実や目的があるとはいえず、会社には責任がないと判断されているようです。これに対し、従業員が、業務のためにもマイカーを使っていたような場合は、会社が運行供用者や使用者にあたると認定され、会社にも損害賠償責任があるとされる可能性があります。
 なお、業務に使用中かどうかは外形を基準として判断されます(最判S39.2.4など)ので、日常的にマイカーを業務使用していたような場合は、事故の時には業務以外の用事で運転していたとしても、会社の責任が認められる場合があることに注意する必要があります。会社としては、マイカーの業務使用を黙認していたと言われないように、明示的に禁止しておくなどの対応を取ることが望ましいといえるでしょう。
Q3 私は、会社から転勤を命じられています。しかし、家族のこともあり単身赴任はしたくありません。会社からの転勤命令を拒否できるでしょうか?
結論としては、具体的な状況によって転勤命令を拒否できることもあります。
転勤は、労働者の住居の変更を伴う配置転換命令のことをいいます。
会社が労働者に配置転換(転勤)を命じるには、まず、労働契約の内容として会社に配置転換を命じる権限があることが必要です。通常、就業規則に配置転換を命じることができる旨の規定があります。
ただし、このような規定があっても、会社として無制限に配置転換を命じることができるわけではありません。
例えば、会社との間で勤務地を限定する合意が存在していた場合にはこれに反する配置転換命令を出すことはできません。
また、そのような合意がない場合でも、業務上配置転換の必要性がない場合、不当な動機・目的をもってなされた場合、あるいは、労働者が通常受ける限度を著しく超える不利益を受ける場合などは、その配置転換(転勤)命令は無効なので拒否できます。
過去の裁判では、要介護状態の老親と精神病の妻を抱えていた労働者に対する転勤命令(ネスレ日本(配点本訴)事件・大阪高裁H18.4.14判決)や、重い病気で手術した妻や知的障害のある弟と同居していた労働者に対する単身赴任を伴う転勤命令(大津地裁H9.7.10決定)が、権利の濫用として無効とされています。
したがって、あなたは、配置転換の必要性がない場合等の他、ご家族に上記裁判例に匹敵するような事情がある場合には、転勤命令を拒否できることになります。
ハラスメント
Q1 パワハラという言葉をよく耳にしますが、パワーハラスメントとは何でしょうか?
パワーハラスメントに関しては、厚生労働省により「パワーハラスメント対策導入マニュアル」が作成されています。このマニュアルにも記載されていますが、パワーハラスメントとは、「同じ職場で働く物に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されます。これには、上司から部下へのいじめ・嫌がらせのみならず、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対し行われるものも含まれます。
具体的な行為類型としては、①暴行・傷害(身体的な攻撃)、②脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)、④職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)、⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過小な要求)、⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)があります。
Q2 パワーハラスメントが認められた場合、だれがどのような責任を負うのでしょうか?
まず、加害者自身が被害労働者に対し、身体、名誉感情、人格権などを侵害したとして不法行為責任を負います。
また、加害者だけでなく会社も、被害労働者に対する労働契約上の安全配慮義務違反の責任や使用者責任を負う場合があります。
なお、民事責任だけでなく、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、脅迫罪(刑法222条)、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)等にあたるとして、刑事責任を問われる場合もあります。
Q3 上司から指導される際に、毎日のように「おまえは馬鹿」と大声で怒鳴られています。これはパワーハラスメントにあたりますか?
職場での注意・指導の際に行われた言動については、注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠く場合に、パワーハラスメントにあたると評価されます(東京地判平成26年7月31日参照)。
「お前は馬鹿」という発言は、相手に屈辱を与え心理的負担を過度に加えるものであり、名誉感情をいたずらに害するものであると考えられます。したがって、たとえ発言者が注意又は指導等の意図を有していたとしても、毎日のように「おまえは馬鹿」と大声で怒鳴るような行為は、注意又は指導のための言動として許容される限度を超え、相当性を欠くものとして、パワーハラスメントにあたると考えられます
採用について
Q1 新卒予定者に採用内定通知を出しましたが、経営が苦しいので内定取り消しを検討しています。内定を取り消すことに制限はあるのでしょうか?
内定の形態にはいろいろなパターンが考えられますが、採用内定後に改めて正式に契約するかどうかの意思表示をすることが特に予定されていないような場合には、内定時に解約権留保つきの労働契約が成立するというのが判例の考え方です(最判S54.7.20)。そうすると、内定の取り消しも、労働契約の解約つまり解雇としての意味を持つことになり、解約権を留保した趣旨や目的に照らして客観的に合理性があって社会通念上相当だといえる場合であれば、取消が認められるということになります。大学の単位を落として留年したような場合には内定取り消しは認められやすいでしょうが、質問のように経営が苦しいという理由の場合は、整理解雇としての意味合いを持つので、内定取り消しを回避する努力をしているかどうかなどの事情を考慮してケースバイケースで判断されることになります。
労働基準法の改正について
Q1 労働基準法が一部改正され2010年4月1日から施行されたそうですが、どの点が改正されたのですか?
長時間労働の抑制、また仕事と生活の調和等のために、大きく分けると以下の4項目の改正が行われています。
① 一ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率が引き上げられました。
② 労使協定の締結により、時間外労働が60時間を超えた場合に、割増賃金の支払いに代えて有給の休暇(代替休暇)を付与できるようになりました。
③ 限度基準告示で定める限度時間を超えた時間外労働の割増賃金率について努力義務が課されました。
④ 一定の場合に、年次有給休暇を時間単位で取得できるようになりました。
Q2 一ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率引き上げについて教えて下さい。
改正前は、法定時間外労働に対しては、合計時間にかかわらず「25%以上」の割合での割増賃金を会社が支払う必要がありました。今回の改正により、一ヶ月の法定時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率は、60時間を超えた分について「50%以上」とされました。ただし直ちにすべての会社に適用されるわけではなく、
① 小売業では資本金(出資金)5000万円以下か従業員数50人以下
② サービス業では資本金(出資金)5000万円以下か従業員数100人以下
③ 卸売業では資本金(出資金)1億円以下か従業員数100人以下
④ その他の業種では資本金(出資金)3億円以下か従業員数300人以下
これらの会社には適用が猶予されています(2013年4月以降に、適用について検討が行われることとなっています)。
Q3 残業や休日出勤をした場合、法定時間外労働の合計はどのように計算すればよいのですか?
出勤日については、一日または週の法定労働時間を超えた分を算入します。一日の法定労働時間は8時間(週40時間)ですので、8時間までは、たとえ就業規則上の所定労働時間を超えていても、「累積60時間」の計算には含まれないことになります。休日については、法定休日(一週間に一日が原則)に出勤した場合には、「休日労働」となり、35%以上の割合での割増賃金を支払う必要があるものの、時間外労働ではないため「累積60時間」には含まれないことになります(休日出勤でさらに一日の法定労働時間も超過している場合は別です)。法定休日ではないものの就業規則で休日とされている日(法定外休日)に出勤した場合は、一日または週の法定労働時間を超えた分が時間外労働として扱われ、「累積60時間」の計算に含まれます。
Q4 就業規則所定の休日に急な仕事が入ったため、従業員に出勤してもらいましたが、その後に代休は取らせています。この場合、時間外労働の計算はどうなるのですか?
休日出勤に前もって別の日を代休として指定していれば、休日だった日に労働しても時間外労働とはなりません(休日の振り替え)。しかし、休日出勤(時間外労働にあたる)のあとに代休を与えることになった場合は、いったん発生した時間外労働をなかったことにはできませんので、割増賃金を支払う必要もありますし、「累積60時間」の計算にも含まれることになります。
Q5 法定労働時間が60時間を超えた場合の代替休暇は、どのくらいの日数が必要なのですか?
60時間を超える部分の時間外労働時間に、「代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率マイナス代替休暇を取得した場合の割増賃金率」を掛けた時間数をもとに、一日または半日単位で付与することになります。
端数が出る場合は、
① 端数についてのみ割増賃金(50%以上)を支払う
② 有給の休暇制度と合わせて一日または半日という代替休暇の単位まで切り上げて休暇を与える
③ 代替休暇を与えずに全額割増賃金(50%以上)を支払う
以上のいずれかの方法によることになります。
Q6 限度基準告示で定める限度時間を超えた時間外労働の割増賃金率について努力義務が課されたとは、どういう意味でしょうか?
労使協定により、法定労働時間を超えて労働をさせることが認められます(一般に「36協定」と呼ばれるものです)。この36協定によってどれだけの時間外労働をさせることができるかを示したものが、時間外労働の限度基準です。原則として、
① 1週間に15時間
② 2週間に27時間
③ 4週間に43時間
④ 1ヶ月に45時間
⑤ 2ヶ月に81時間
⑥ 3ヶ月に120時間
⑦ 1年間に360時間
が限度時間とされています。ただし、特別の事情により臨時的に、限度時間を超えて時間外労働が発生することが見込まれる場合には、「特別条項付き36協定」を締結することにより、一定期間に限り、限度時間を超える時間外労働の上限を設定できます。この「特別条項付き36協定」を締結する際に、限度時間を超えた場合の割増賃金率を定めることが義務化され、その率を「25%を超えるもの」とする努力義務が課される、という改正が行われました。
Q7 年次有給休暇を時間単位で取得できるのは、どのような場合ですか?
労使協定を締結し、次の点を定めておく必要があります。
① 時間単位取得の対象となる労働者の範囲
② 時間単位年休として付与できる日数(1年に5日が上限)
③ 何時間の時間単位年休が1日分となるか(所定労働時間が下限)
④ 「1時間」以外の時間数を単位とする場合は、その時間数
なお、年次有給休暇には計画的付与の制度(有給を与える時期を指定する制度)がありますが、時間単位年休については計画的付与はできないことになっています。
付加金について
Q1 訴訟を提起して付加金を請求することができると聞いたのですが,付加金とはどのような制度ですか?
裁判所が,「解雇予告手当(労働基準法第20条)」,「休業手当(労働基準法第26条)」,「時間外,休日及び深夜の割増賃金(労働基準法第37条)」の規定に違反した使用者又は「年次有給休暇(労働基準法第39条)」の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して,労働者の請求によって,これらの規定により支払わなければならない金額についての未払い金のほかに,これと同一額の金員の支払を命ずることができる制度です(労働基準法第114条)。付加金は,労働者にとって特に重要な賃金・手当について,支払義務に違反した使用者に制裁を科すことによって,義務の履行を確実にする趣旨で定められたものといえます。
ただし,付加金は裁判所の裁量により支払いが命じられるものであり,労働基準法違反によって当然に発生するものではないことには注意が必要です。また,付加金の請求は,違反のあったときから2年以内にしなければならないとされています(同条ただし書)。なお, 中小事業主については労働基準法第37条第1項ただし書(「延長して労働させた時間が一カ月について60時間を超えた場合においては,その超えた時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」)の規定は当分の間は適用しないこととされていることには注意が必要です。
労働審判について
Q1 労働審判制度について教えてください。
労働審判手続は,労働審判官(裁判官)1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が,個別労働紛争を,原則として3回以内の期日で審理します。その際,労働審判委員会は適宜調停を試みますが,調停による解決に至らない場合には,労働審判を行うという紛争解決手続です。労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば,労働審判はその効力を失い,労働審判事件は訴訟に移行します。
雑則について
Q1 3年前の未払い賃金があるので請求したいのですが,可能ですか?
賃金(退職手当を除く。),災害補償その他の請求権は2年間行わない場合においては,時効によって消滅するとされています(労働基準法第115条)。したがって,時効の中断がない限り,3年前の未払い賃金は時効によって消滅しており,請求することはできません。
年次有給休暇について
Q1 就業規則に年休の規定がないのですが,この場合でも年休は取得できますか。取得できる場合,年休はどのような要件を満たせばもらえますか?
使用者は,6ヵ月以上勤務し(労働契約が存続していることを意味します。),全労働日の8割(分母を全労働日,分子を就労日数で計算します。)以上出勤した労働者に対し,10労働日の年休を与えなければなりません(労働基準法39条1項)。なお,業務上疾病による療養期間,育児・介護休業期間,産前産後休業期間は本来であれば労働日であり,欠勤したことになるはずですが,年休の計算の際には,出勤したものとみなされます(労働基準法39条8項)
Q2 年休を取得する場合,利用目的を告知する必要はあるのでしょうか?
労働者は,年休を自由に利用することができます(年休自由利用の原則。最判昭和48年3月2日民集27巻2号191頁)。したがって,労働者は,時季指定に際して年休目的を告知する必要はありません。
Q3 年休を取得した場合に不利益に取り扱われないでしょうか?
使用者は,労働者が年休を取得した場合に,不利益取扱いをしないようにしなければなりません(労働基準法附則136条。ただし,判例は附則136条を努力義務と解しています。)。ここにいう不利益取扱いの例としては,年休を取得したことにより人事考課を低くすることや皆勤手当を支給しないことなどが挙げられます。

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