違法ダウンロードを処罰する著作権法改正案が成立~今、注意しておくこと
2012/06/05鴻和法律事務所の弁護士の向原です。
このところ、世の中は様々なニュースで溢れかえっていますが、その中で、生活に密着するところで大きいと思われたニュースがあります。
それは、違法ダウンロードを『処罰』する著作権法改正案が、どうやら今回の通常国会で成立する見通しである、というニュースです。
これについて、少し解説させて頂きます。
1 今回の改正のポイント
権利者に無断で著作物をネット上にアップロードする行為は、著作権法上違法であることには疑いがありません。
一方、無断アップロードされた著作物をダウンロードする行為(違法ダウンロード)は、2010年1月1日に施行された著作権法改正により、著作権法30条1項3号が新たに付け加えられることになって、著作権侵害として扱われることになりました。
ただし、この2010年1月1日改正によっても、違法ダウンロードに罰則は付されておらず、したがって、違法ダウンロードしても、刑罰に処せられることはありませんでした(もっとも、「法に触れる」ことには違いがないので、それによって著作権者に生じた損失を、民事上、賠償する責任を負わされる可能性があり得ます)。
ところが、今回の改正においては、無断アップロードされた著作物を、それと知って違法ダウンロードした場合には、処罰の対象となります。
法定刑は、2年以下の懲役かまたは200万円以下の罰金ということです。
2 どういう場合に、処罰の対象になるのか~「認識」の問題
問題はここからです。
処罰の対象となるのは、ダウンロードした著作物が「違法にアップロードされたものであることを認識している場合」に限られます。
そして、この「認識」の有無は、入手経路を客観的にみて判断されるものと考えられます。
たとえば、ちゃんとした販売サイトからお金を払って著作権データを入手した場合=「認識なし」=適法 と推認される可能性が高いでしょう。
他方で、運営者も把握できないような怪しげなサイトに貼られているリンクをうっかり押したりした場合が問題です。
もし「違法にアップロードされたものかもしれないな、だとしても仕方ない」と思っていれば、「認識あり」=違法 と推認される可能性は高いと考えられます。
一方で、怪しげなサイトから著作物をダウンロードする場合に、「違法にアップロードされたものとは思わなかった」と言い張ることは、なかなか難しいように思われます(サイトの内容が、通常の人をして、著作権アップロードのライセンスを得ていると思わしめるような内容であれば別かもしれませんが、想定しがたいです)。
3 捜査の端緒との関係~誰でも犯罪者にされる可能性!?
違法アップロード系の刑事事件としては、いわゆるWinnyやShareといったピア・ツー・ピア(P2P)ソフトを利用したファイル共有ソフトによるアップロードが処罰されるケースが典型的です。
このような事件の捜査の端緒は、サイバーパトロール(欠く都道府県警及びそこから委託された民間業者によるインターネット上の違法・有害情報の巡回チェック)によるものもあれば、著作権者ないし著作権団体からの通報によるものもあります。
もしも警察がこれらの端緒により違法アップロードを認知した場合、警察は、発信者のIPアドレス(インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続されたPCや通信機器ごとに割り振られた個別の識別番号)を手がかりに、サーバーごとにアクセス記録をたどっていって、最終的にはインターネットプロバイダにたどり着き、インターネットプロバイダから当該IPアドレスが割り当てられている契約者の情報の提供を受けて、発信者(アップロードした者)を特定し、強制捜査を行います。
強制捜査においては、被疑者のパソコンを差し押さえられることになります。
これと同じことが、今回の法改正により、ダウンロードによっても、起きる可能性がありうるのです。
ダウンロードをする場合も、アクセス記録は残りますから、アップロードの場合と同様に、ダウンロード記録を取られると、誰が何をダウンロードしたのかは技術的に解り得ます。
つまり、ダウンロードの事実は、簡単にわかってしまうのです。
ダウンロードは、アップロードのように、いちいちファイルを選択してアップロードするという過程を踏む必要はなく、ただ、リンクをクリックすればいいだけの手軽な作業です。
つまり、アップロードに比べ、違法行為の実行行為のハードルがきわめて低いことが、恐ろしい点だといえます。
相当に穿った見方をすれば、別件でアヤシイ人がいれば、そのIPアドレスを察知し、違法ダウンロードの履歴を検索し、それを端緒にその人を身柄拘束するツールとして用いることも、技術的には十分に行い得るでしょう。それも、パソコンを利用して高速に、ということになりそうな懸念があります。
日本の場合、逮捕さえされれば、イコールその人は犯罪者であるとの推定が働くのが実情ですから、これは脅威だと思います。クリックひとつで「犯罪者」に仕立てあげられる危険があるのです。
4 もう一つ残された問題~著作物(とくに動画)の視聴
すると、違法に入手されたであろう著作物(とくに動画)を、単に視聴することも、「ダウンロード」として違法になるのでしょうか。
答えは、Noです。
この点、著作権法47条の8においては、
「電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)には、当該著作物は、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録することができる。」
と書かれています。
つまり、動画を閲覧する際は、一次的に、パソコンのメモリ領域にデータが複製されるものの、それは、「当該電子計算機(パソコン)・・・円滑かつ効率的に行うために必要・・・限度で・・・記録」されたにすぎないものにあたり、複製権を侵害したということにならないのです。
ですから、今回の改正法にかかわらず、視聴をするにとどまる場合には、違法性はない、ということになるでしょう。
もっとも、注意が必要なのは、インターネットエクスプローラー、QuickTime、RealPlayer、Youtube及びニコニコ動画のような、一旦データをダウンロードして、ダウンロード中でも再生可能とした技術(これを、プログレッシブ(先行)ダウンロードといいます)の場合は、視聴者側の PC にメディアファイルが保存される、すなわち、一時的にではなく複製されます。
また、違法にアップされた著作物の視聴は、送信者の公衆送信権侵害によって行われているので、本条にいう「(これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。)」と規定されている点からして、本条の適用除外になるのではないか、という疑問が残ります。
これらの点が解決されていない以上、上記のような、プログレッシブダウンロード技術を用いた動画の視聴は、処罰の対象とされてもおかしくないということになります。
少なくとも確実なのは、蓄積されたデータを取り出せば、それは、著作権法49条にひっかかり、違法行為ということになる、ということです。これだけは完全なクロです。
弁護士 向 原 栄 大 朗