担当行政事件の逆転勝訴判決が判例時報に掲載されました
2019/05/26弁護士の是枝(これえだ)です
鴻和法律事務所の弁護士甲木真哉と弁護士是枝秀幸が担当した遺族厚生年金不支給決定取消訴訟の逆転勝訴判決が、著名な判例雑誌である判例時報 No.2399 2019年5月11日号に掲載されました
詳細を知りたい方は判例時報の該当記事をお読みください
判例時報 No.2399 | 判例時報社
担当弁護士から一般の方向けに簡単に紹介させていただきます
(説明を簡略化していますので不正確な点はご了承ください)
【1 判決】
福岡地方裁判所平成28年11月18日判決
(請求棄却・原告控訴)
福岡高等裁判所平成29年6月20日判決
(原判決取消・請求認容・確定)
【2 事案の概要】
専業主婦の妻と会社経営の夫は、10年間、婚姻して同居していましたが、ある日突然、夫が妻へ離婚を申し出て一方的に別居させて音信不通となり、その後、夫から妻へ生活費も支払われず音信不通のまま、別居の約9か月後、夫が病死していたという事案です
通常、夫が死亡した場合、妻に遺族厚生年金が支給されます
しかしながら、本件では、夫が死亡した時点で夫婦が別居していたため、妻は遺族厚生年金が支給されませんでした
もっとも、夫が妻へ離婚を申し出て一方的に別居させて音信不通となったにすぎず、離婚が成立していたわけでもありません
そこで、訴訟で妻は国を相手取り遺族厚生年金の支給を求めました
地方裁判所は、厚労省の通知(「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」)を前提に、本件では、夫から妻へ生活費が支払われていなかったことから、支給を認めませんでした
高等裁判所は、上記通知の例外条項(「ただし、これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、この限りでない。」)を前提に、本件では、夫が妻へ離婚を申し出て一方的に別居させて音信不通となったにすぎず、そのようなときにまで形式的に支給を認めないとすることは不当であるとして、支給を認めました
【3 本判決の意義】
近年、生計同一要件に関する裁判例は、肯定否定ありますが、東京高裁H22/8/25や東京地裁H23/11/8は緩やかに解して生計同一要件を認め、東京地裁H28/2/26は例外条項を適用する等、救済方向に向かっており、本判決もその事例の一つとして意義を有するものです
【4 余談】
ところで、差し支えない範囲の余談ですが、この案件は弁護士是枝が知り合いの社会保険労務士から紹介を受けて、受任したものです
率直に申し上げると、行政事件は統計的に原告勝訴率が1割程度であり通常より難易度が高く、弁護士是枝自身は行政事件を担当した経験がなかったため、当初、受任すべきか、躊躇していました
弁護士是枝から当事務所の他の弁護士へ本件の相談を受けており共同受任を募ったところ、当事務所の弁護士甲木から弁護士是枝へ行政事件の経験があるとの返答があったため、共同受任に至りました
なお、甲木は、弁護士会行政問題委員会副委員長を務めています
受任前後、文献や裁判例を調査するうちに、これは本当に勝てる事件ではないかという気がしてきましたし、弁護士らで依頼者から話を聴く度にこのままではいけない事案であると感じさせられました
しかしながら、第一審の地方裁判所の判決では、表面的な事実経過に囚われて生計同一要件を認めないばかりか、例外条項についてもほぼ検討されておらず、期待を裏切られる結果となりました
このときばかりは、私は、弁護士にすぎず当事者ではないものの、これが裁判所の判断かと、本当に心底がっかりしましたが、私たちは依頼者から気丈にも控訴を依頼していただきました
控訴審の高等裁判所の判決では、弁護士甲木の理論と気迫のある控訴理由書が奏功したのか、当時の当事者の心境等を汲み取った丁寧な事実認定がなされたうえで、例外条項にあたると判断されました
勝訴後、私たちは、依頼者から、御礼とともに「裁判所に自分が妻だと認めて貰えてよかった」とのお言葉をいただきました
本件を受任して行政事件の逆転勝訴という結果に至ったのは、「法律の総合病院」を目指して各弁護士が一定の専門性をもって様々な分野の知識経験を得ている当事務所だからこそ、と感じました
令和1年5月26日
文責 弁護士 是枝秀幸(これえだ・ひでゆき)