2022年4月から中小企業もパワハラ防止対策が義務付けられます

2022年4月から中小企業もパワハラ防止対策が義務付けられます

2021/07/23

弁護士の是枝(これえだ)です

この10年間で「パワーハラスメント」という言葉がだいぶ身近なものとなりました
中小企業としてもパワハラを無視することはできないと言ってよいでしょう

2019年、日本もハラスメントを全面禁止とする条約を批准しており、労働施策総合推進法が改正されました(パワハラ防止法)
2020年、改正法が施行されるとともに、厚生労働省が「精神障害の労災認定基準」の「業務による心理的負荷評価表」にパワハラを明示しました

改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、30条の2以下で「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等」として、事業者にパワハラ対策を義務付けています
2022年4月から中小企業もパワハラ防止対策が義務付けられます

そして、上記ではパワハラ防止対策についてのみ書きましたが、実際には、改正労働施策総合推進法によるパワハラ防止対策に限りません
すなわち、上記のパワハラ防止対策と同様に講ずべき措置として、改正男女雇用機会均等法11条でセクシャルハラスメント防止対策が、同法11条の3でマタニティハラスメント防止対策が、改正育児・介護休業法25条で育児休業・介護休業ハラスメント防止対策が、それぞれ規定・強化されています(さらに厚生労働省の指針もあります)

なお、少々難解な話になりますが、現時点で制定されている日本の法令では、雇用関係にない方(就職活動中の方や取引先の従業員、業務委託先の個人事業主)に対する事業者の言動について、ハラスメント防止対策が義務付けられていませんが、不当な言動が許容されるものではないので、防止対策が「望ましい」とされています
(さらに言えば、改正男女雇用機会均等法11条3項では、例えば、A社は、A社が雇用する労働者XさんによるB社の雇用する労働者Yさんに対するセクハラに関し、B社から、事実関係の確認等の雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならないこととされていることにも、留意が必要です)

厚生労働省が詳細なパンフレットを公開しているので、「そもそもパワハラ?」等の説明はそちらを参考にしていただき、本項では、改正法のパワハラ対策防止に絞ってご紹介します

パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました! ~~セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします~~」[PDF:13,120KB]

今回の改正法におけるパワハラ対策防止は以下に挙げる4つの柱があります

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
併せて講ずべき措置

具体的にすべきこととしては主に以下のとおりです

社内への周知・啓発、研修等
就業規則の改訂
相談窓口の設置
相談者のプライバシー保護や不利益取扱の禁止

【社内への周知・啓発、研修等について】

ウェブ等で宣言する、社内報などでチラシを配布する、社内研修を行う等が考えられます

【就業規則の改訂について】

就業規則に防止規定等を定めるとよいでしょう(厚労省パンフ34頁参照)

【相談窓口の設置について】

厚労省パンフにも記載がありますが、一定規模以上の企業を前提としているのか、中小企業における人員不足や人的な距離の近さに配慮されていないようですので、以下、補足します

・目的は良好な就業環境の回復であり、すべきことは相談の傾聴、事実の調査、回復に向けた対処等であって、金銭補償ではないものと考えられます

・相談窓口(パワハラの被害者等が相談する相談先)は、社内に設置する場合、社外に設置する場合、社内と社外の双方に設置する場合が考えられます

・社内に設置する場合、特に中小企業では人員がすくないため、相談窓口の担当者(例:管理職等)とパワハラ等の加害者とされる者(例:中堅社員)が親しいことが多く、秘密保護や調査・対処の公平中立性に不安があり、被害者(例:新入社員)の相談先として実質的に機能しない可能性があります

・社外に設置する場合、相談窓口を顧問弁護士や顧問社労士とすると、相談者と事業主がパワハラ等の事実・評価や責任の所在について対立的な見解を有するに至った場合、利益相反となり、その後は顧問弁護士や顧問社労士が相談者からも事業主からも相談を受けられない事態となる可能性があります

※ ここで利益相反について留意すべきとしているのは、パワハラの当事者が顧問弁護士等へ「直接」相談する場合であり、企業が会社として弁護士等へ相談することについては全く問題ありませんので、もし社内でパワハラ発生の疑いがある場合には、ご遠慮なく速やかにご相談ください

・中小企業における相談窓口の設置の実務としては、一例ですが、以下が考えられます。

① 社内と社外に設置して、相談者に相談先を内密に自由に選択してもらい、相談窓口の担当者は相談したこと自体や相談内容を秘密として厳守する
② 社内の相談窓口は本社の管理者・人事労務部門等から男女1名ずつ担当させて、相談対応や秘密厳守について、事前研修を行う
③ 社内の相談窓口で相談の概要を聴取したうえで、公平中立な調査や対処が困難と考えられる場合には、外部の相談窓口を案内する
④ 社外の相談窓口は、コストがかかるが、外部(弁護士、コンサル会社等)に委託することも検討する(コンサル会社等は弁護士法違反に留意する)

【相談者のプライバシー保護や不利益取扱の禁止について】

相談窓口ではもちろんですが、社内全体でも相談内容や相談したことを秘密にすることや、相談したことによる不利益取り扱いはしないことが重要です

ときどき、労働者の方から弁護士として相談を受ける際、「大事にしたい気持ちはなく、安心して働きたかっただけなのに、上司にセクハラ被害を相談したら、会社がセクハラ加害者を左遷してしまい、セクハラ被害を相談したことが社内で噂になり、他の従業員から私が『そこまでしなくてもいいのに』と非難めいたことまで言われた」という相談もあります

一口に相談と言っても、相談者は、傾聴して欲しいだけなのか、穏便に円満に対応して欲しいのか、厳格に毅然とした対応までして欲しいのか、様々です

また、相談や調査を通じてハラスメント被害の事実が判明したからと言っても、直ちに解雇等すると、事案によっては行為と処分の軽重が取れずにトラブルとなる可能性もあります

事前に準備して相談窓口を設置したうえで、実際に相談を受けたときには、会社自身も弁護士等に対応方針を相談することで、冷静かつ適切な対処ができるのではないかと思います

令和3年7月23日
文責 弁護士 是枝秀幸(これえだ・ひでゆき)

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