選挙の「事前運動の禁止」について、きちんと理解していますか?

選挙の「事前運動の禁止」について、きちんと理解していますか?

2023/02/25

こんにちは、弁護士の田村和希です。

今年(令和5年・2023年)は、4年に一度の統一地方選挙が実施されます。

昨年11月に成立した特例法によれば、今回の統一地方選挙の日程は、前半の知事選挙などは4月9日に、後半の市区町村長選挙などは4月23日に行われることとされています。

この全国的な地方選挙に向けて、選挙活動なども活発化していくところですが、公職選挙法上、規制・禁止されているものがあるため、注意が必要です。


私は、弁護士になる前に、県庁職員として選挙管理委員会に3年間在籍していました。

事前運動の禁止は、その概念も含めてあいまいな点が多いものです。何をしたらダメで、何をしても良いのか、きちんと理解していない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、法律的な側面から、「事前運動の禁止」についてできるだけ分かりやすく説明したいと思います。

事前運動の禁止

公職選挙法(以下「公選法」)では、「事前運動」が禁止されています(129条)。

この事前運動の禁止に違反して、刑事事件として摘発・起訴され、判決にまで至ると、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処せられ(同法239条1項1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(同法252条1項・2項)。

立候補を予定する人や、その支援者などは、禁止された事前運動には十分に注意しておかねばなりません。

選挙運動/選挙運動期間/事前運動

ただし、「事前運動」といっても、その文字を眺めるだけでは何が事前運動なのかわかりませんよね。

事前運動」とは何か、を知るためには、「選挙運動」と「選挙運動期間」を正確に把握する必要があります。

まず、「選挙運動」について、公選法上は明確な定義がないものの、判例によれば、特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接的に必要かつ有利な行為」をいうとされます(詳しくは後述します)。

この選挙運動は、“選挙の公示・告示日から選挙期日の前日まで”しかすることができず(公選法129条)、この選挙運動ができる期間を「選挙運動期間」といいます。

この選挙運動期間の「」に選挙運動を行うことを「事前運動」といい、公選法では一切の事前運動が禁止されているのです。

事前運動が禁止されている理由

では、なぜ事前運動は禁止されているのでしょうか。

その理由は、選挙運動の開始時期を特定することで、各候補者の選挙運動をできるだけ同時にスタートさせ、公正な選挙を実現するため、とされています。

砕いて言えば、候補者たちが「よーいドン」で一斉に選挙運動をスタートすれば、よりフェアな選挙に近づいていく、という考え方に基づくものです。

公正な選挙によって民意を反映させ、民主主義を実現するため、政治活動を行う者・とくに立候補予定者は、自分の政治活動が事前運動に当たらないよう、注意深く活動する必要があると言えます。

選挙運動の4要素

とはいえ、選挙運動期間の前でも、交差点などに立っている政治家を見る機会は多いと思います。事前運動として禁止されているのは、あくまで「選挙運動期間」の前の「選挙運動」ですから、この「選挙運動」に当たらない政治活動であれば、事前運動には当たりません。

そこで、「選挙運動」とは具体的にどのような行為か、何が「選挙運動」と判断されてしまうのか、を考えていくことになります。

選挙運動は、上で述べた定義から、次の4つの要素を含む行為と理解されます。


(1) 特定の公職の選挙に関するものであること(必ずしも公示の有無を問わない)

(2) 特定の候補者(候補予定者)のための行為であること

(3) 候補者の当選を図るために投票を得又は得させるための行為であること

(4) 投票獲得に直接または間接に必要かつ有利な行為であること


ですから、分かりやすい例としては、「(1)今度の市議会議員選挙に、(2)立候補する予定の●山△男(氏名)です、(3)どうか一票をよろしくお願いします」などと(4)有権者に対して呼びかける行為は、上の4つの要素を含むので、選挙運動に当たります。

逆にいえば、上記の要素を含まない、立候補の準備行為やその他の政治活動、経済活動、社会的行為などは、選挙運動とは区別され、事前運動とはなりません。

しかし、これらの活動などは、実態としては選挙運動として行われる例も少なくありません。そこで、ある行為が選挙運動に当たるかどうかは、当該行為が行われた時期・場所・方法・内容などの事情を、個別・具体的に見ていく必要があります。

もし、抽象的に『こういう行為は選挙運動に当たるか』と選挙管理委員会に問い合わせても、おそらくは『個別の事案によります』という回答しか返ってこないと思われます。

過去に摘発されたり警告を受けたりした実例を参考に、検討してみましょう。

過去の実例 (以下、“●●”などは政党名または氏名を示します)

これまで、次のような事案が「事前運動」に当たるとして警告を受けています。


・公示前、●●党の政治活動用自動車で、「参院選には、●●党の公認候補となる■■■■です。参院選では、投票用紙に『■■■■』と書いて投票していただくと、私が当選することになっています。私を国政に復帰させてください」と拡声機を使って、通行人などに対して投票を依頼した。

・告示前、立候補予定者が、懇親会の席上で、「4月には、大事な選挙があります。私も出るつもりです。ぜひ私に入れていただきたい」などと発言し、投票を依頼した。

・公示前、スーパーの買い物客に対し、後援会入会申込書などを頒布しながら、「今度の選挙では●●をお願いします」と投票を依頼した。

・公示前、政治活動用自動車で「△△▲▲を擁立します。△△▲▲にご声援をお願いします」と連呼しながら選挙運動をした。

・告示前、県議選の立候補予定者が駅前で「■●党の××です。4月には県議選を戦います。みなさまの大きなご声援をお願いします」などと演説をした。


最近の事案として、ある衆議院議員が、令和3年(2021年)の衆議院選挙の告示前に、みずからへの投票を呼びかける選挙はがきなどを、自身の出身大学の卒業生ら有権者に送ったとして、公選法違反(事前運動)の罪に問われた、という刑事裁判が報道されました。

一審では、当該議員に罰金30万円の有罪判決が言い渡されましたが、令和5年2月現在、同議員は控訴して争っており、今後の裁判の動向が注目されます。

この事件では、送った相手である卒業生らが、選挙はがきを送っても問題ない「支援者」に当たるのか、それとも事前運動として規制されうる「不特定多数の有権者」なのか、が大きな争点となっています。

さいごに

事前運動かどうかの判断は、最終的には裁判所によってなされるため、事前運動かどうかをあらかじめ確実に把握し判定することはとても難しいです。

しかし、事前運動の定義や、それが禁止される理由、過去の事例などを学び、「こうした行為は危ない」「これは避けておいた方がよい」という感覚を身に付け、磨いていくことで、警告・摘発を受けるリスクを下げることはできます。

政治活動に携わる方は、選挙の時期が本格化する前に、できる限り、事前運動の規制について学んでおかれることをお勧めします。

また、自分では気を付けていても、思いもよらずに警察から捜査を受けることもあります。当事務所においては、事前運動を含めた公選法違反の弁護活動についても対応しています。お悩みのことがあった際は、いつでもご相談ください。

令和5年2月24日

文責 弁護士 田村 和希

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