失敗した医師の手は切るべきか

失敗した医師の手は切るべきか

2015/03/04

平成25年10月に発生した福岡市博多区の整形外科の診療所火災で入院患者ら10人が死亡した事故について、
平成27年2月17日に、博多署が同診療所院長の男性(47)を業務上過失致死傷の疑いで福岡地検に書類送検しました。

書類送検については、ほとんどの事件で送検されますから当たり前といえば当たり前の話です。
ただ、今回、福岡県警は送検にあたって、わざわざ起訴を求める「厳重処分」の意見を付けているそうです。

私自身は、今回の医療事故(施設安全管理を含む概念で考えています)で、起訴することには強く反対です。

今、民事事件としてのご遺族への賠償支払については
慰謝料なども含めて、過失を認める形で誠意をもって行われているのではないかと思います。

これに加えて刑事事件で有罪となれば、これをもとにして行政処分によって医師免許も剥奪されることになることが強く予想されます。
今回の院長については、患者からは「若先生」とも呼ばれて非常に評判の良い医師だったそうです。

今回は不作為の過失事件であり、決して故意の犯罪ではありません。

一つの大きな失敗で、医師は追放されるべきなのでしょうか。

昔は、医療安全のためには、失敗した医師の手を切ればよいという考え方もあったそうです。
今回でも、刑事事件で厳重処罰をして二度と医療業界には戻れなくすれば今後同じような事故は起こらないと考えることもできるかもしれません。

しかし、それでは根本的な解決とはなりません。

「TO ERR IS HUMAN」という考え方があります。
訳すると「人は誰でも間違える」です。
1999年にアメリカの医療事故に関する報告書で公表されたのですが、「人は誰でも間違える。だから医療事故は起こる」との報告は、世界に大きな影響を与えました。

これに続いて報告書では
「重要なことは、起こってしまった誤りで個人を攻撃することではなく、安全を確保できる方向にシステムを設計しなおし、将来のエラーを減らすように専心することである」とされています。

今回の医療事故後、
全国で9249施設あった有床診療所は、8447施設にまで減ったそうです。

その原因は、「経営難」といわれています。経営難の背景には、診療報酬の問題があります。入院患者の診療報酬は格段に低く設定されているので、防災設備を整える費用が工面できない病院が増えているのです。
スプリンクラー設置義務を広げるだけでは何も解決しません。

福岡市の取り組みも少しずつ始まってきましたが

今後二度と同じ悲劇を起こさないためには、
「医師を厳重処罰すること」

ではなく

「どうすれば医療安全を確保できるか」

を現実の小規模有床診療所の実態を踏まえて、行政が予算を伴った形で実行することだと思います。

文責 弁護士 矢口耕太郎

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