中小企業者に販売された為替デリバティブ取引と金融ADRの実際

中小企業者に販売された為替デリバティブ取引と金融ADRの実際

2012/07/20

リーマンショック後の円高の進行と継続によって、為替デリバティブ取引が中小企業者の経営の重荷になっているという記事が時として新聞紙上に出て参ります。そこで、今回は、問題となる為替デリバティブ取引の特徴とその解決方法としてのADRについて、整理してみます。なお、事案とADR手続の性質上、具体的事例に基づく詳細な説明まではこの場ではできませんので、お許しください。

 

ここで問題となる為替デリバティブ取引の特徴を敢えて一般化すると、①輸入取引をしている中小企業者が、②銀行との間で、③為替リスクヘッジ目的で、④取引期間5年以上の長期間にわたる為替デリバティブ取引をしているということに集約されるでしょう。なお、①について、輸入取引をしていない事例や、輸入取引はあるが、商社経由の間接貿易の事例もあります。

 

そして、この中小企業向け為替デリバティブ取引の問題解決については、ADR(裁判外紛争解決手続)が利用されており、このことは、全国銀行協会のウェブサイトからも確認できますし、時々新聞記事等でも確認できるところです。

 

問題となる為替デリバティブ取引には、ゼロコスト型通貨オプション取引とクーポンスワップ取引があり、両者とも取引による損益状態は同一です。
円高の継続により損失を被っている業種は、輸入仕入を行っている中小企業者であり、為替デリバティブ取引を勧誘した業者は、大手都市銀行及び有力地方銀行です。従って、選択できるADRは、一部の例外を除いて、証券・金融商品あっせん相談センター(以下「FINMAC」)のあっせん手続と、全国銀行協会(「全銀協」)のあっせん手続の双方となります。

 

しかし、残念ながらFINMACのあっせん手続は、あっせん委員の個人差あるいは地域差による運用の格差が激しく、紛争解決手続としての利用にはリスクを伴うと判断される状態でした。これは、本年3月まではそうであったと明確に申し上げられますが、その後運用改善が図られているかもしれません。
とはいえ、弁護士の業務は、大切なお客様の案件を扱うことになりますので、今でもFINMACのあっせん手続を選択する勇気はないというのが私の考えです。

 

それに対して、全銀協のあっせん手続は、やや強権的な面もありますが、比較的安定した運用がなされ、提示されるあっせん案についてもADRとして考えれば事案に応じたものとなっているようです。そこで、以下は全銀協におけるADRを中心に話を進めて参ります。
為替デリバティブ取引に関するADRでの論点としては、①為替デリバティブ取引の商品性、②銀行側の説明義務の履行、③適合性原則という論点に集約されるでしょう。その他に優越的地位の濫用や不招請勧誘という論点もあり得ますが、事例としては多くはありません。とりわけ、優越的地位の濫用といえる事例は、為替デリバティブ取引をしている企業は優良企業が多いことから、少ないといってよいでしょう。

 

そして、ADRにおいては、これら①~③の論点についても、その手続の性質上、重要度が異なります。

 

すなわち、①の商品性の論点は、これまで裁判例においても正面から判断された事例はないことから、ADRで判断することは困難といえます。②の説明義務の問題は、正式な証拠調べ手続がないため、銀行側がミスを認めない限りあるいは客観的な証拠(書面や録音)等がない限り、ADRにおける判断には馴染み辛いものとなります。そのため、③の適合性原則の問題として、A財務耐久性、B当該企業の商流における為替変動リスクヘッジの必要性、Cオーバーヘッジの有無が中心的な論点となります。
また、ADRにおける事例は、取引途中の為替デリバティブ取引を中途解約したいが、多額の解約清算金の支払いが銀行から求められている場合が大半と思われ、あっせん案は、その解約清算金についての減額割合を示すものとして提示されるのが通常の例です。そして、その判断には当該取引における過去損失額が影響します。

 

従って、為替デリバティブ取引の解決方法としてADRを選択するに際しては、これらのADRにおける実務的運用を検討したうえで対応する必要があるのです。

 

なお、ADRが実際どのように運用されているかについては、全銀協のウェブサイトに事案の概要と結果が公表されておりますが、詳細は公表されておりません。全銀協は、利用者には秘密保持の誓約を取り付けておりますので、事案及び解決内容の詳細は公式に明らかになることはありません。また、時にインターネット上では、ある事例における為替デリバティブの解決事例の紹介が見受けられますが、どこまで正確な内容かは不明です。少なくともADRにおけるあっせん案や解決結果は、上記の論点と過去損失を含めた判断の結果に過ぎないといえます。問題は、ADRで中心となるべき論点について、事案に適切な主張とその裏付けとなる証拠書類の提出こそが最も重要であり、それがあって初めて解決ラインの予測が可能で、かつ、あっせん案と予測がほぼ一致することになります。逆に、重要な論点に対する主張と裏付けとなる証拠の提出ができなければ、ただ単にADRを利用しただけであり、解決内容にも満足できないという結果になってしまいます。

 

私個人的には、問題となる為替デリバティブ取引は、商品性こそ問題であると考えておりますが、これを中心的な論点にしてもADRでは有利な結果を期待することが困難です。商品性の問題を中心にするには訴訟の段階に進むほかないと思いますが、訴訟である以上、敗訴リスクは否定できません。とはいえ、商品性の問題を明らかにして初めて説明義務の軽重及び範囲を判断することができますし、適合性原則の問題も判断できると考えております。

 

近時、仕組債等オプションの売り取引を含めた金融商品はかなり出回っており、これをリスクを取れる範囲で購入することは適切な投資行動であると思います。私も個人的に(小遣い銭程度ですが)購入することもあります。

 

例えば、株価が底値安定と判断される時期に株価連動オプションの売り取引を組み合わせた金融商品を短期間だけ保有し利回りを狙うというような判断もありえるでしょう。それでも、損失発生の可能性を認識し、損失が出ても適切な時期に損切りができるというのが自己責任の前提であると考えています。ところが、中小企業輸入業者向け為替デリバティブ取引は、かなりこれとは異なっております。

 

商品性の問題については、主張したいことが山積していますが、本題からは外れますので、また機会あるときに整理したいと思います。

 

平成24年7月20日 文責 新宮浩平

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