拘禁刑の創設(懲役刑・禁錮刑の廃止)
2022/07/271 改正の概要
令和4年6月13日、刑法等の一部を改正する法律が成立しました。
この改正により、懲役刑・禁錮刑が廃止され、「拘禁刑」として単一化されます。
「拘禁刑」に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができるとされています。
改正法の施行は、令和7(2025)年(公布から3年以内に施行予定)となる見込みです。なお、改正法の適用対象となるのは施行後に行われた犯罪であり、施行前に懲役刑または禁錮刑の判決が確定して受刑中の者には、引き続き両刑が執行されます。
ちなみに、刑罰の種類が変更されるのは、明治40年の刑法制定以来、初めてのことです(115年ぶり)。
2 改正の経緯等
現行法において、懲役受刑者には、一律に、刑務作業(木工、印刷、洋裁、金属及び革工等)を行うことが義務付けられています。
一方、禁錮受刑者には、本来、刑務作業は義務付けられていないものの、その約8割が自ら望んで刑務作業に従事している状況です。なお、刑事裁判において禁錮刑が選択されることは非常に少なく、令和2年の入所受刑者のうち、禁錮受刑者の割合は0・3%にとどまります。
犯罪白書によると、近年、刑法犯の検挙人員自体は減る一方、再犯者は増加傾向にあり、令和2年には検挙人員に占める再犯者の割合が49・1%となっています。そのような状況の中で、再犯防止のため、刑務作業を義務付けるだけでなく、受刑者の処遇の充実に取り組むべきではないかとの議論がなされていました。
また、日本の刑務所は、受刑者の高齢化が進んでいます。具体的には、令和2年における65歳以上の高齢受刑者数が2,143人(平成13年と比べて約2.1倍に増加)と入所受刑者の12.9%を占めている状況であり、体力や認知機能が衰えた受刑者に対し、一律に刑務作業を行わせることが難しいといった問題も生じていました。
以上のような事情を踏まえ、今回の法改正により創設されたのが「拘禁刑」です。
「拘禁刑」は、受刑者を刑事施設に入所させた上で、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができるというものです。
すなわち、従前の懲役刑とは異なり、受刑者は、必ずしも刑務作業を義務付けられることなく、「改善更生」のために何が必要かという観点から、受刑者それぞれの特性に合わせた処遇を受けることになります。
例えば、薬物依存の受刑者には、グループで薬物の問題について学び、再犯を防ぐ教育プログラムを受けること、若い受刑者には仕事や生活に必要な学力を身につけることのほか、身体的な衰えが深刻な高齢の受刑者には、出所後の社会復帰に向けた体力や認知機能の回復を図る取り組みを増やすこと等の柔軟な処遇が考えられます。
この改正により、受刑者の真の改善更生と円滑な社会復帰の促進が期待されています。
「懲らしめ」の意味合いがあったこれまでの懲役刑から大きく転換を図り、受刑者の特性や問題をよく見極め、その立ち直りを後押しすることを目指すものです。
令和4年7月27日
文責 弁護士 安井 杏奈