イラストレーターと著作権(無断トレースの問題)

イラストレーターと著作権(無断トレースの問題)

2022/01/31

今回は、イラストレーターが生み出した作品が、侵害者によって、無断で、トレース(元の作品を再現する行為)されたTシャツやステッカーが販売されている場合、イラストレーターが侵害者に対して何を請求できるか、弁護士に依頼した後の流れを含めて概略をご説明いたします。

1 事実関係調査、法律関係調査

① まずは、イラストレーターの作品(イラスト)に著作物性が認められること(ありふれた表現でないこと等)、侵害者の行為が著作権侵害に該当すること及び損害額等を調査、検討します。特にイラストの場合、通常、イラストレーターの個性が何らかの形で発揮されているため、基本的に著作物性が認められると考えられます。

次に、著作権侵害の成否においては、「依拠性」を検討することになります。具体的には、侵害者がイラストレーターのイラストを知っていたこと、イラストレーターのイラストと侵害者の作品との同一性の程度、侵害者の創作過程などの事情を検討します。

そのため、侵害者の使用しているイラストが似ているというだけでは著作権侵害に該当しませんが、トレースの場合、イラストがそのまま再現されていることが多いため、基本的に著作権(複製権)を侵害していると考えられます。

弁護士に相談していただく際は、イラストレーターとしての経歴や過去のイラストの一覧とともに、侵害者の行為を裏付ける資料(侵害者による違法な販売等を裏付けるスクリーンショット画像など)、イラストの時価(例えばイラストレーター自身が設定している商品価格など)や過去に使用料を設定したことがある場合はその資料を持参していただけるとスムーズです。

② 侵害者の氏名や住所が不詳の場合、氏名及び住所を調査します。

2 弁護士名義の通知文書の発送

上記調査及び検討後、侵害者に対して、弁護士名義で通知文書を送付し、以下の請求をします。

① 著作権侵害行為(トレースして製作した違法な商品の販売)の差止め(著作権法112条1項)

② 著作権侵害物(トレースして製作した商品やデータ)の廃棄などの措置の請求(著作権法112条2項)

③ 損害賠償請求(民法709条)

弁護士名義の通知文書を受領した侵害者が、任意に侵害行為の停止に応じることや損害賠償金を支払うことなどの約束をするなど誠実な対応をした場合は、終局的な紛争解決を内容とする和解書(合意書)を作成するのが通常です。

3 事案によっては、告訴を検討

上記2は、侵害者の民事責任を追及するものですが、告訴は刑事責任を追及するものです。著作権を侵害した者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされており(著作権法119条1項)、著作権等保護の実効性確保のため、罰則が強化されてきています。

4 最近の裁判例

大阪地裁平成31年4月18日判決(眠り猫イラスト事件)は、原告が、被告に対し、

①被告によるTシャツの製造が原告のイラストの著作権(複製権又は翻案権)を侵害すること、

②原告のイラストの写真を被告が運営するホームページにアップロードしたことが原告の著作権(公衆送信権)を侵害すること、

③被告が原告のイラストを複製又は翻案し、原告の氏名を表示することなくTシャツ等を製造等したのは、原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害すること、

などを主張し、原告のイラストの複製、翻案又は公衆送信の差止め、著作権侵害の各物品やデータの廃棄、損害賠償等を求めた事案です。

裁判所は、被告によるTシャツの製造等が原告のイラストの著作権及び著作者人格権の侵害を認めたうえで、イラストの複製、翻案及び公衆送信の差止請求、イラストを使用した商品やデータの廃棄請求、損害賠償請求(著作権法114条3項に基づく損害=著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額=自己が受けた損害の額として122万3570円、慰謝料=原告の著作者人格権による慰謝料として30万円、弁護士費用15万円)を認めました。

5 最後に

福岡市美術館をはじめとして、福岡市内のカフェ(平尾、大宮など)やラーメン店(大名)など、福岡市内の至るところに福岡出身のイラストレーターの素敵な作品が飾られており、当職も執務室にお気に入りのイラストを1枚飾っています。

そのような素敵な作品を、第三者が無断でトレースして商品化して販売する行為は、イラストレーターが本来得られる利益を奪う違法な行為であり、許されるものではありません。

このような違法行為については、発見次第速やかに、証拠を保全するとともに、弁護士に相談をして、差止や損害賠償などの法的措置をとることが肝要です。

令和4年1月31日

文責 弁護士・弁理士 竹永光太郎

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