事実上の取締役に関する役員等の第三者に対する損害賠償責任

事実上の取締役に関する役員等の第三者に対する損害賠償責任

2014/10/31

弁護士の是枝(これえだ)です

先日、少しめずらしい判決を取得しまして、依頼者の了承を得たうえ、消費者法ニュースへ判決の簡単な紹介文を寄稿する機会がありました
(もちろん依頼者を含む当事者を特定することができない限度で)

せっかくですので、弁護士だよりでも、少し紹介したいと思います

【事案】※簡略化しています

・顧客が建築会社に対して住宅リフォーム工事を依頼した
・顧客が建築会社に対して請負代金の大半を支払った
・建築会社は半年以上着工しなかった
・建築会社は着工することなく破産した
・社長(代表取締役)と会長(役員ではない)は破産しなかった
・顧客が社長と会長を会社法429条1項に基づき提訴した

【役員等の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条1項)】

「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」

・「役員等」

取締役・執行役・監査役・会計参与・会計監査人のことを言います
代表権の有無(代表取締役か平の取締役か)は必ずしも関係ありません
名目的取締役(適法な選任決議はあるが実際には取締役としての任務を遂行しなくてもよいとの合意が会社と取締役の間でなされている場合)でも、原則として、429条1項の責任を負うものとされています

・「その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとき」

役員等の任務を行うすることが容易であったのに怠けたときのことです
取締役は、他の取締役の業務執行を監督し、必要があれば、取締役会を自ら招集する等して、会社の業務執行の適正化に努める必要があります
取締役は、自らの違法不当な業務ではなくとも、他の取締役の違法不当な業務執行を見過ごしたのであれば、任務を怠けたものと評価されます

【争点1・事実上の取締役】

上記の事案の争点の1つ目が、会長(役員ではない)についても、事実上の取締役(適法な選任決議はないが実際には取締役としての任務を遂行しているもの)として、会社法429条1項が適用されるか、でした

事実上の取締役について、判決は、会長が事業停止の16年前に同社を創業して代表取締役の地位にあったこと、息子が代表者(社長)に就任してからも会長が同社の重要な事項を決定していたこと、会社が関連会社を通じて同社の代表取締役とほぼ同額の報酬を得ていたこと等から、これを肯定して、会社法429条1項の類推適用の余地を認めました

【争点2・任務懈怠】

上記の事案の争点の2つ目が、会長(役員ではない)が取締役としての任務を行うすることが容易であったのに怠けたときと言えるか、でした

任務懈怠について、会長は従業員による不正行為が同社の事業停止の原因であり会長は気づかなかった等と主張して争いましたが、判決は、事業停止の2年以上前に同社の赤字経営や資金難の深刻化が認められること、会長が契約締結状況把握や在庫管理を行わず従業員の不正行為を招いたこと、会長が日ごろから契約締結状況把握や在庫管理を行うのは容易であったことから、会長の任務懈怠について重大な過失を認めました

【近時の参考判例】

・事実上の取締役について
名古屋地裁平成22年5月14日判決

・任務懈怠について
静岡地裁平成24年5月24日判決(但し事実上の取締役につき否定)
福岡高裁宮崎支部平成11年5月14日判決

【感想】

国民生活センターの弁護士会照会の回答や会社の破産手続の一件記録により、会社に対する苦情状況や会社の急激な拡大状況を明らかにして、会長の任務懈怠等を印象付けることができた、と感じています

平成26年 10月31日
文責 弁護士 是枝秀幸(これえだ・ひでゆき)

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