相続開始後の預貯金の払戻し

相続開始後の預貯金の払戻し

2013/06/20

1金融機関における預金の取扱い
遺産分割では、被相続人名義の普通預金や定期預金を解約して払戻しを 受け、払い戻された現金を各相続人に分配するというケースがよくあります。
しかし、遺産分割協議が整っていない段階で、相続人の一人が金融機関に出向いて払戻しを受けようと思っても、金融機関は払戻しになかなか応じてくれません。全国の金融機関に対するアンケート調査では、73%の金融機関が全員の署名をもらってから払い戻すと回答したとの報告もあり(判例タイムズ1355号54頁参照)、多くの金融機関では、相続人全員の署名・捺印のある遺産分割協議書や印鑑登録証明書、戸籍関係の書類等の必要書類の提出を要求します(必要書類は金融機関によって異なりますので払戻しの際には事前に金融機関に確認する必要があります。)。これは、金融機関が遺産分割の紛争に巻き込まれるのを未然に防ごうという考えに因るものと思われます。

 

ところが、法律上、被相続人名義の預貯金について、次のように考えられています。
⑴まず、被相続人名義の預貯金は、被相続人の死亡と同時に、何らの手続 きを必要とせずに、法定相続分に従って、当然に分割されます。
当然に分割されるというのは、例えば、被相続人である夫が1000万円の預金をもっていて、妻と子ども2人が相続人であるケースを想定すると、法律上は、夫の死亡と同時に、妻が500万円、子どもが各250万円ずつの金融機関による払戻請求権を取得するということです。
したがって、窓口では払戻しに簡単に応じてくれない金融機関に対し、相続人の一人が訴訟を提起して請求が認められれば、相続分に応じた金額を支払ってもらうことができます。相続人の一人が自分の相続分の支払を受けるのにわざわざ裁判をしないといけないというのは手間がかかるものですが、多くの金融機関の現在の実務の状況です。
⑵ただし、平成19年10月1日より前に預け入れた郵便局の定額郵便貯金については他の金融機関の預金とは違った取扱いがされており、相続人の一人が郵便局を相手に裁判をしても、預入の日から10年が経過するまでは分割払戻しができないとされています。郵便局が民営化になる前の旧郵便局の定額郵便貯金は、郵便貯金法により、預入の日から10年が経過するまでの間は分割払戻しができないという契約上の制限がついているためです。
そのため、平成19年10月1日より前に預け入れた郵便局の定額郵便貯金については、預入の日から10年が経過していない場合、遺産分割協議が整わない限り、相続人の一人が自己の法定相続分に応じた払戻しを行うことはできないことになります。
⑶このように、預貯金の種類によって取扱いが異なるものの、遺産分割に困難が予想される場合には、自己の相続分に相当する預貯金の払戻しを請求するケースも少なくありません。

 

2調停における預金の取扱い
旧郵便局時代の定額郵便貯金を除いては、預金債権は遺産分割協議を経ずとも当然に分割されると説明しましたが、遺産分割協議において、不動産や株式といった遺産と一緒に預金も分割の対象に含めて話し合いたいというのが多くの相続人が思うところです。
そこで、家庭裁判所における遺産分割調停では、相続人から預金を分割の対象としないという積極的な申出がない限り、そのまま分割対象に含めて手続きが進められています。
また、遺産分割調停では話がまとまらずに審判に移行した場合も、相続人間で預金を分割対象に含める旨の合意があれば、合意に従って判断されることになります。

 

平成25年6月20日
文責 弁護士 大塚祐弥

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