ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の弁護②
2019/04/16澤村智子「家庭裁判所による『国際的なこの奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律』の運用状況について」(「法の支配」No.191/2018.10)によれば、ハーグ条約実施法が施行された平成26年4月から平成30年3月までの4年間に東京家裁及び大阪家裁において合計69事案の終局決定がなされています。
そこで、今回は、ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件のうちインカミングケース(外国から日本に子が連れてこられ、又は、留置されたケース)で子についての監護の権利を侵害された者(以下「LBP」といいます)の代理人弁護士の役割について、概略をご説明します。
子の返還申立事件の特徴としては、①親権や監護権の帰属そのものは審理・判断の対象ではないということ、②早期審理が要請されており、基本的には、申立てから6週間以内に決定がなされること(申立てから約2週間後に第1回期日、申立てから約4~5週間後に第2回期日、申立てから約6週間後に決定)、③返還拒否事由がない限り、原則として子を返還しなければならないことが挙げられます。
つまり、LBPの代理人弁護士としては、一般的には、子の返還申立の前までに十分な準備期間があるということができます。
LBPからのご相談を受けた場合、まずは子の返還事由の有無(常居所地国の所在、監護の権利の侵害の有無、留置の開始時期等)を検討します。例えば、常居所地国における親権に関する調査等を行います。
次に、TPから予想される反論を事前に検討し、再反論を準備します。例えば、相手方と子が一緒に出国し帰国しないことについての合意の有無などの返還拒否事由に関する調査等を行います。
その上で、裁判所に提出する子の返還申立書の作成及び提出を行います。その際、同時に、出国禁止命令及び旅券提出命令の申立てをすることもあります。
また、裁判所への出頭前にはリハーサルを行い、裁判所及びTP側から想定される質問にも充分に備えます。
子の住所地が西日本の場合、第一審の裁判管轄は大阪家庭裁判所となりますが、同裁判所への出頭の際には弁護士も同行します。
参考までに、当職がインカミングケースのLBPの代理人を担当した事案においては、法28条1項4号の返還拒否事由の有無が争点となりましたが、返還拒否事由を裏付ける的確な資料がなく、同事由があるとは認められないとされて、子の返還が認められました。
当該事案においては、子の返還申立前にご相談をいただき、メールやその他の方法等を利用することにより、多くの証拠書類等のやりとりをタイムリーに行い、周到な準備を経て子の返還申立てができたこと等が良い結果につながったと考えます。
平成31年4月12日
文責 弁護士 竹永光太郎