民法改正と不動産賃貸借(敷金・原状回復・保証)

民法改正と不動産賃貸借(敷金・原状回復・保証)

2014/11/30

弁護士の是枝(これえだ)です

平成26年11月22日、鹿児島市内において、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会様主催の家主様応援セミナーにて、民法改正と賃貸借について講演をさせていただきました

平成24年は遺言について、平成25年は信託について、それぞれお話をさせていただきましたが、今回は平成27年の民法改正を見据えたお話をさせていただきました

賃貸借契約の実務に影響が大きい事項は「保証」に関する改正でしょう

この弁護士だよりでは、以下のとおり、要旨を紹介させていただきます

1 民法改正とは

民法とは、私人間の権利義務・法律関係について定めた、原則的な法律
(私法(実体法)の一般法・明治29年(1898年)制定)

改正は、民法を、
一般の方に分かりやすく、現代社会の情勢にあったものへ
とすることが狙い

平成27年に国会へ法案が提出される見込み

平成26年8月 法制審議会 – 民法(債権関係)部会 要綱仮案 決定
法務省:
「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900227.html

2 「敷金」

(1)現行民法

明文規定はない(なお、民法316条、619条)

(2)改正民法

要綱仮案によれば、過去の判例法理を明確化すべく、以下のような規定が置かれる見込み

---引用開始---

(要綱仮案 第33賃貸借 7敷金)

7 敷金

敷金について、次のような規律を設けるものとする。

(1)賃貸人は、敷金(いかなる名義をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この7において同じ。)を受け取っている場合において、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は賃借人が適法に賃借権を譲渡したときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

(2)賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときは、敷金を当該債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金を当該債務の弁済に充てることを請求することができない。

---引用終了---

3 「原状回復」

(1)現行民法

明文規定はない
(賃貸借に関する民法616条が準用する民法598条は、賃借人の収去のみを明記しており、賃借人の収去義務について明文規定はない)

(2)改正民法

要綱仮案によれば、最近の判例法理を明確化すべく、以下のような規定が置かれる見込み
(最判平成17年12月16日民集21巻8号1239頁、
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」等)

---引用開始---

(要綱仮案 第33賃貸借 13賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務)

13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係)

民法第616条(同法第598条の準用)の規律を次のように改めるものとする。

(1)賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。

(2)賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

(3)賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この(3)において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

※ なお、使用貸借においては上記の(3)の括弧書き部分は存在しない。

---引用終了---

4 「保証」

(1)現行民法

明文規定はない
(なお、民法465条の2~5に貸金等根保証契約についての規定)

(2)改正民法

要綱仮案によれば、保証人保護のための制度として
賃貸借契約等の保証人についても、極度額の定めがなければ、根保証契約の効力が生じない
ものとした

※ 極度額……保証人が負う責任の金額的な上限のこと

上記改正によれば、損害額が想定外に大きくなった場合(例えば死亡事故等)でも、賃貸人が保証人に対して極度額を超える請求をすることはできなくなる
(実務的な対応として少額短期保険の加入も検討すべきか)

要綱仮案によれば、保証人保護の制度を創設すべく、以下のような規定が置かれる見込み

---引用開始---

(要綱仮案 第18保証債務 5根保証)

5 根保証

(1)極度額(民法第465条の2関係)
民法第465条の2の規律を次のように改めるものとする。
ア 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約(仮称)」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
イ 個人根保証契約は、アの極度額を定めなければ、その効力を生じない。
ウ 民法第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約におけるアの極度額の定めについて準用する。

(2)元本の確定事由(民法第465条の4関係)
(略)

(3)求償権についての保証契約(民法第465条の5関係)
(略)

(要綱仮案 第18保証債務 6保証人保護の方策の拡充)

6 保証人保護の方策の拡充

(1)個人保証の制限
(略)

(2)契約締結時の情報提供義務
(略)

(3)保証人の請求による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
請求による履行状況の情報提供義務について、次のような規律を設けるものとする。
債権者は、委託を受けた保証人から請求があったときは、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち履行期限が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

(4)主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務について、次のような規律を設けるものとする。
ア 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、主たる債務者がその利益を喪失したときは、債権者は、保証人(法人を除く。)に対し、主たる債務者がその利益を喪失したことを知った時から2箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
イ 債権者は、アの通知をしなかったときは、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時からその旨の通知をした時までに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生じていたものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。

---引用終了---

5 まとめ

・敷金
昔からの判例を明文化したもの

・原状回復
最近の判例を明文化したもの

・保証
保証人保護の制度を創設・拡充したもの

上記以外にも、事業目的借入の保証等の重大な改正がありますので、確認してみてください

平成26年 11月30日
文責 弁護士 是枝秀幸(これえだ・ひでゆき)

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