交通事故に関する弁護活動

交通事故に関する弁護活動

2014/12/26

1 交通事故に関連する罪名と法定刑

⑴ 交通事故を起こして相手にけがを負わせてしまった場合には、まず、「過失運転致傷罪」が成立し、相手が死亡してしまった場合には「過失運転致死罪」が成立し得ます(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「法」といいます。)5条)。これらの犯罪は7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金の刑罰が定められています。
さらに、飲酒や薬物による運転困難な状態での運転行為や高速度や信号無視等悪質な運転行為の場合には危険運転致死傷罪(法2条、3条)が成立する場合もあり、この場合、相手を負傷させてしまった場合には最高で15年以下の懲役刑、相手を死亡させてしまった場合には最高で1年以上20年以下の懲役刑の刑罰が定められています。

⑵ また、事故直後にアルコールや薬物を摂取したり、その場を離れてアルコールや薬物の濃度を減少させたりした場合には、「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」が成立し(法4条)、12年以下の懲役に処せられます。なお、その場から逃げた場合には、これとは別に救護義務違反の罪(道路交通法72条1項及び117条2項)も成立し、その場合、最高で18年の懲役刑の刑罰が定められています。
さらに、無免許運転で死傷事犯を起こした場合には、更に法定刑が加重されます(法6条)。

 

2 交通事故に関する事件の特徴について
(1) 交通事故に関する事件の特徴として、まず、量刑の幅が非常に広いことが挙げられます。不注意によって交通事故が生じてしまった場合に成立する過失運転致死傷罪の場合と、故意犯であり悪質な運転行為の場合に成立する危険運転致傷罪とでは法定刑が大きく異なりますし、仮に犯罪が成立する場合でも過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪とでは執行猶予になる可能性が格段と異なります。

(2) また、交通事故は一瞬の出来事であるため、事故態様に関する被害者の供述と加害者の供述、目撃者がいる場合には目撃者の供述が食い違うことも多々あります。 その場合、誰の供述が信用できるのか吟味するために、スリップ痕や自動車の破損状況等の客観的状況から事故態様を科学的に分析し、事故態様を調査・検討する必要があります。

(3) さらに、被害者に対する被害弁償・示談の成立の有無が結果に大きく影響しますが、任意保険が付保されている場合には保険会社が関与するため、そのことを考慮しつつ迅速に対応する必要もあります。

 

3 交通事故に関する事件での弁護活動

(1) 事故態様の把握
まずは、弁護人として被疑者と打合せや面会を通じて事故態様について把握することが重要です。
危険運転致死傷罪は故意犯であるため、例えば、飲酒等の影響により的確な運転操作が難しい状況にあることをどの程度自覚しながら自動車を運転していたかは極めて重要です。この「自覚」というのは、単に被疑者の供述だけではなく、事故現場の状況、蛇行等の運転状況や運転前の飲酒量、飲酒検知結果等から認定されます。
したがって、弁護人としては事故態様を把握する必要があるため、事故現場に赴くことはもちろん、目撃者や一緒に飲酒していた方から事情を聴取します。時間が経てば経つほど証拠が散逸してしまいますし、人の記憶力も低下しています。着実な証拠収集をするためには初動が肝心なので迅速に行動します。
また、事故態様について被疑者・被告人の供述や被害者・目撃者の供述が食い違うこともしばしばあります。そのような場合には、自動車工学の専門家と提携しつつ、スリップ痕やガウジ痕、自動車の破損状況、衝突までの自動車との距離等から、車両の速度や衝突地点等、科学的に事故態様を再現することも行います。

(2) 取調べへの対応
ア 被疑者段階において特に重要な弁護活動としては、取調べにおいてどのような自白調書をとられているかということを把握し、今後の取調べではどのような点に注意すべきであるか助言することです。
危険運転致死傷罪は故意犯であるため、どのような認識で運転行為を行っていたのか、捜査機関は、その「認識」を裏付ける調書をとろうとします。捜査機関に対して「酒に酔って歩けないほどふらついていた」などと安易に自白することがないよう、危険運転致死傷罪の罪質や取調べに対する対応の仕方を弁護人から接見時に助言を受けることは極めて重要といえます。
イ このように安易に不利な自白をとられないことによって、逮捕罪名が危険運転致死傷罪であったとしても、過失運転致死傷罪に落として起訴される可能性もあります。危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪とでは法定刑が異なるだけでなく、執行猶予になる可能性も大きく異なるため、何罪で起訴されるかは今後の裁判において極めて重要です。

(3) 身柄解放に向けた活動
逮捕・勾留された後、起訴されると長期の身体拘束を余儀なくされます。長期の身体拘束は精神的に苦痛なだけでなく、仕事面や家庭面でも重大な不利益を被るおそれがあります。
不当な身柄拘束を阻止するためにも,家族や時には勤務先に連絡をとったり,起訴前であれば勾留決定に対して不服申立て(準抗告)を行ったり、起訴後であれば保釈の申請をしたりするなど,迅速な弁護活動が要求されます。

(4) 起訴後の弁護活動
起訴された場合には、まず、起訴された事実と被告人が主張する事実を対比し、事故態様について争いがあるのかどうかによって弁護活動が異なってきます。
争いがない場合には、減刑・執行猶予の獲得に向けた活動が重要です。危険運転致死傷罪で起訴された場合には、過失運転致死傷罪と比較して統計的に執行猶予率が低下すること自体は否定できませんが、被害者に対する謝罪や保険金以外の金銭の支払い、自動車の処分といった具体的な活動が重要であることに変わりはありません。
争いがある場合には、前述のように自動車工学の専門家と連携し、被告人の供述、被害者の供述、目撃者の供述等に矛盾がないか検討し、意見書の作成を依頼します。その上で、被告人やご家族と打合せを行いつつ、被告人の利益として何が最善であるのかを考え公判活動を行います。

 

平成26年12月25日
文責  弁護士 大塚祐弥

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