大きく変わる医師の残業管理

大きく変わる医師の残業管理

2018/03/05

こんにちは。弁護士の矢口です。

職業の中で、一番勤務時間が長いと言われているのは「医師」です。厚生労働省の調査では、週当たりの勤務時間が60時間以上の医師の割合は、約4割という驚くべき結果も出ています。

そんな中、平成30年2月22日に、東京高等裁判所が、医師の未払い残業代として273万円、付加金を含めて546万円の判決を出しました。

この裁判は私もずっと注目していたのですがかなり長い経過をたどっていまして、

①横浜地方裁判所平成27年4月23日判決

②東京高等裁判所平成27年10月7日判決

③最高裁判所平成29年7月7日判決

ときて、最高裁で差し戻されての今回の東京高等裁判所の判決となりました。

 

今回、大きく問題となったのが、「医師の年棒制について、残業代が含まれるのかどうか」という問題でした。

 

事件となった医師の年棒は年間1700万円、金額としてはかなり高額なようにも思いますね。

①の地方裁判所の判決では、「医師の年棒に、未払いの残業代は含まれる」という判断をしました。

これは、

医師の業務は人の生命身体の安全にかかわるもので、労働時間の枠を超えて活動されることが要請される重要な職務であるから、時間ではなく内容が重要視されるべきである

ということや

医師は最新の医療情報を収集して日々研鑽することが求められていて、時間より質ないし成果によって評価することが相当

なので、年棒制には合理性があるということ、年棒が高いことから認めても労働者の保護に欠けないこと等を根拠として、「契約するときに、年棒1700万円について通常の時間外労働賃金に含まれることは医師もわかっていただろうということで合意を認めて未払い残業代は含めてもよい」いう判断をしていました。

地裁が判断した年棒に未払い残業も含まれるという内容は、②の高等裁判所でも支持されていました。

 

しかしながら、最高裁判所がこの判断は認めることができないとして覆しました。本来、年棒や固定残業代制を巡る最高裁判例では、

 

①年棒に時間外労働などの割増賃金が含まれていることを労働契約の内容として明らかにすること

②割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とが明白に区別できるようにすること

 

の2要件がそろっていることが必要とされていまして、今回の地裁判決、高裁判決では医師の場合は特例が認められるというような扱いをしていました。

 

ところが、最高裁判所は、今回の医師の年棒については、

 「本件時間外規定に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年棒1700万円に含める旨の合意がされていたものの、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると、本件合意によっては、上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり、年棒について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金にあたる部分とを判別することはできない。したがって、被上告人の上告人に対する年棒の支払により、上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない」

という判断で、とくに②の要件を満たしていない以上は、年棒の中に未払い残業代が含まれるという判断はできないという判決を下しました。

この判決にしたがって、平成30年2月22日の高裁判決では、わずか半年での残業代分で、合計500万円以上の高額の未払い残業代と付加金の判決が出されたわけです。これが2年分の残業代だとしたらと思うと、かなり金額も大きくなっていたと思います。

先月、医師の残業代の管理に関する講演をしたのですが、やはり病院においては年棒制を採用しているところが多いのが現状です。

医師は緊急の仕事も多く、人の命と安全に関わることですから、あまり時間の管理になじまないというのはそのとおりですし、そのために高額の年棒制を採用している病院は多いと思います。

しかしながら、これまで通用していた年棒制は定め方が最高裁が求める要件を満たしていない不十分な内容の場合には、認められないということになりました。

早急に、最高裁判所が求めている2要件を満たす形に修正する必要があります。とくに明確区分性の部分に注意が必要です。何時間分の労働時間が年棒に含まれているのかを明らかにしなければなりません。

今、働き方改革で罰則付き時間外労働の上限規制の法制化も進んでいますが

医師は現在では法制化後に5年間の猶予を認められているものの、例外にはしないことを国が宣言しています。

今後、医師の働き方は大きく変わってくると思います。

特に地方には、医師の偏在を含めて様々な問題を抱えていますが、

これからは、病院管理の方法も、大きく変わってくることを意識していかねばなりません。

平成30年3月5日

文責 弁護士 矢口耕太郎

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